春夏秋冬。四季の移り代わりとともに、植物の姿も移ろっていく。日本は、国土の約7割が森という、自然豊かな国です。反対に、世界の中には森がない国もあります。例えば、アラビア半島にあるカタールは森林率が0%。森は全くありません。エジプトやオマーンの森林率も0.1%以下とのこと。
森があったり、なかったり。森が無くても、草原はあったり。はたまた砂漠だったり。その土地ごとによって、当たり前ですが自然風景はまったく変わってきます。
では、何が要因となってこういった自然風景が変わってくるのでしょうか。今回は、森と気候の観点から、少し深掘りをしてみたいと思います。
恵みの雨と、森の関係性
森ができる要因は大きく2つあります。1つ目の要因は、「降雨量」です。
森林率が0.1%以下だったエジプトの首都カイロは、年間約25mm程度しか雨が降らないと言われています。これは、日本で夕立が2、3回降った程度の雨量。
反対に、熱帯雨林が広がるパプアニューギニアやインドネシアなどは、年間降水量が2000mmを越えています。
森は、水が豊かで潤っている湿潤なところでしか成り立つことができません。そのため、雨の量によって、砂漠になったり、草原になったり、森になったりと自然の姿が変わっていきます。
下記図は、地球上の主な植生の分布図をまとめたものです。さっきの降水量の分布図を見比べると、雨がたくさん降る地域に森が広がっているのが分かりますか?
もう1つ、森ができるために大切な要素があります。それは、「気温」です。ある程度寒い環境でも、寒さに耐性のあるトウヒなどの針葉樹は耐えることができます。しかし、植物も生き物なので、寒すぎる環境だとその土地で暮らしていくことはできません。樹木は、年平均気温が-5℃以上の地域で、育つことができるといわれています。
「葉っぱはなぜこんな形なのか?/林将之 著」の本の中で、針葉樹の葉っぱの形について、とても興味深い考察がまとめられていたのでご紹介します。温帯よりも更に寒い地域(亜高山帯や寒温帯など)に生えているモミやツガといった針葉樹の樹木。過酷な環境で暮らしているため、落葉広葉樹のように毎年使い捨ての葉っぱをつくっていると、エネルギーコストが合いません。しかし、過酷な環境だからこそ、周りに競合するような植物は少ない。そこで、あらゆる角度から日光を受けられる、表裏の境目が余りないような丈夫で長持ちする葉っぱが生まれたのではないだろうか、という説です。興味深い説で、妙に納得してしまいます。
ゴルフ場に生えている“スズメノカタビラ”という草。ゴルフ場のグリーンは年間約300回芝刈り作業が行われ、徹底的に管理されています。芝以外の植物が暮らしていくには、とても過酷な環境。しかし、この草は、刈り取られる高さよりも低い位置に種をつけることで、ゴルフ場の中で仲間を増やし続けています。植物たちは、置かれた環境の中で精一杯の工夫をしながら一生懸命生きているのです。
雨と気温が織りなす、土地ごとに個性のある自然風景
次は雨と気温の関係性を地域ごとに比較をしながら、もう少し深堀をしていきたいと思います。
例えば、赤道の近くにある熱帯。マレーシアやインドネシアなどは、一年中気温が高く、年間降水量も2000mmを優に超えるため、“熱帯雨林気候”に分類されています。温度も水分もある、植物が大好きなこの環境。世界中にある植物約250,000種の内、約170000種、半分以上は熱帯雨林に生えているそうです。また、熱帯雨林では、1haあたり100~200種の樹木たち(直径10cm~)がしのぎを削りながら暮らしています。日本の雑木林だと、そういった樹木は1haあたり多くて10~30種類程度。改めて、熱帯雨林の多様さを感じます。
同じ赤道近くの熱帯に属している、雨量の少ないケニア。こちらは、熱帯雨林気候と同じく年間を通して気温は高いですが、雨が少ないため“サバナ気候”に分類されています。ライオンやシマウマが草原を雄大に走り抜けるサバンナの風景が有名ですよね。サバナ気候では、主に草原が広がっており、樹木がまばらに生えている自然風景になります。植物の種類も、熱帯雨林と比較するとかなり少なくなります。
サバンナを代表する樹木の1つ、バオバブ。木を引っこ抜いて、逆さにして土へ埋め直したような可愛らしい形をしています。このバオバブは、乾燥した場所でも生きていけられるよう、色んな工夫をしています。まずは、水の貯蓄。大木になったこの樹木の幹の中には、たくさんの水が蓄えられています。そのため、2年間雨が降らなくても耐えることができるそうです。
さらに、乾季に入るとバオバブは葉っぱを落とします。葉っぱから余計な水分が蒸発するのを防ぐためです。葉っぱは、栄養分をつくる重要な基幹ですが、バオバブは、葉っぱがなくても大丈夫。樹皮の下に葉緑体を持っているので、木の幹で光合成をして必要な栄養分を作り出しているのです。
次は温帯に属しているイタリアのナポリをご紹介します。温帯は、四季があるのが特徴です。ちなみに、ナポリは鹿児島の年平均気温とほとんど変わりません。しかし、夏に雨がほとんど降らないため、“地中海性気候”に分類されます。地中海性気候では、硬葉樹林というオリーブやコルクガシ(コルクの原料になる木)、月桂樹(ローリエ)などといった、小さくて硬い葉を持つ乾燥に強い樹木たちが生えています。なぜ葉っぱが小さくて硬いかというと、蒸散による水の消費を最小限に済ませたいからだそう。
同じ温帯に属している日本。イタリアのナポリとは違って、日本は雨がたくさん降ります。日本の年平均降水量は約1,690mm。世界の平均降水量は約810mmと言われているので、世界平均の約2倍以上の雨が降っていることになります。このように、年間を通してたくさん雨が降るので、“温帯湿潤気候”に分類されます。
合わせて、日本の年平気温は約15℃。水も豊富で暖かい日本は、熱帯雨林気候ほどではありませんが、植物が大好きな環境の1つ。そのため、日本も約7000種の多様な植物が生えており、その内の約2900種は日本固有の植物だと言われています。
日本は、この豊かな自然を生かした文化を育んできました。木を炭化することで、煙を最小限に抑え熱効率を上げたエネルギー”炭”もその1つ。そして、“松”も暮らしの道具に使われたり、そして芸術にも影響を与えています。これらを深掘りした記事を以前書きましたので、よければぜひご覧ください。
植物たちの生きる工夫と知恵
植物は、自分が暮らしていける環境をちゃんと知っています。なので、その土地ごとの気候にあった植物が生えていて、その環境で暮らしていく色んな工夫をしているのです。
夏に雨がほとんど降らずに乾燥してしまうような土地では、水をなるべく消費しないように葉っぱを硬くそして小さくする。反対に、寒さが厳しい地域では、モミやトウヒといった寒さに耐えられる針葉樹が生えてる。こういった土地ごとの気候と植物の工夫が、その地域独自の自然風景を生み出しているのです。
森は、全ての生命の源です。動物や昆虫などの住処として。また、光合成によって空気を作ったり、雨を溜め、浄化し、私たちの飲み水を作ってくれます。しかし、森があるのは、決して当たり前ではありません。地球の約7割は海。陸地は3割しかありません。そして、地球の中に森はたった1割ほど。気温や気候などといった条件がそろった、地球のごくわずかなところにしか森はないのです。
そうやって俯瞰してみると、森がこんなにも豊富にある日本は、改めて豊かだとは思いませんか。
<参考文献>
新版 森と人間の文化史 只木良也 著/熱帯林の100不思議 日本林業普及協会 編/葉っぱはなぜこんな形なのか? 林将之 著