読みもの・お知らせ
2021.06.13

森とまちを旅する tent vol1 「スギダラケ」の理由・後編

お金がないってことが 良かった

─「スギダラ」の活動は多岐に渡っていて、様々な地域とコラボレーションしていますが、いつもどうやって始まっていくのでしょうか?

その地域に、数人でも想いを持った人がいると何か動き始めるんですよ。そこにデザインが足りないってなれば僕らが行ってやるわけですよ。「来てください」、って言われるけど、予算ゼロ円とか普通にあるんですよ。

─え、それはすごいですね。ゼロ円でもやるんですか。

やるんですよ。むしろデザイナーとしてできることは、地域にデザインの雫を落として周ることだと考えています。いろんな場所にデザインの雫を落として、その場所にデザインが必要だったら、波紋になって広がっていく。必要ないと思われればそれで終わり。それだけのことです。でも、お金がないってことが良かったんだと思うようになってきましてね。お金をもらっていないのに、地域をおもしろくしたい!と思ってくれるある意味「変人」だけが残るんですよ(笑)

─確かに!その熱量に共感する変わり者しか残っていかないというのはいいですね。

地域には人がいないと言われてますよね。確かにいない。でも、今いる人の気持ちがまず変われば、その地域も少しずつ変わっていく。そうすると周りの人たちも巻き込まれていく。そんな事例をいっぱい見てきましたからね。へたにお金があると仕事になります。そして、仕事だとお金がなくなったらそこが縁の切れ目になる。そうなると、地域の熱みたいなものまでは生まれなかったりするんですよ。単年度でプロジェクトが終わったりね。

─グッときます。地域の人を変える、というのはとても難しいと思いますが、若杉さんはどのように取り組んでいるのでしょう。

希望とか熱とか、そういうものが伝播していくまであきらめないぞ!という気持ちですよね。そんなにすぐに何かが変わるなんてありませんよ。10年かかるつもりでやるしかない。10年のつもりでやっていれば、5年経ってもまだ半分か、まだまだやるぞ!って思えるじゃないですか。そうやって時間をかけてやっていけば、本当に熱量のある人だけが残っていって、少しずつ物事が転がり始める。

─確かに何十年もかけて作られた「今」を変えるのがそんなに簡単なわけがないですね。

1年とか2年とかで結果を出せ、なんて言われると「飲み会だけで終わるだろ!」って思っちゃいますよね(笑)

行ってこーい! ドーン!

─今年の春から武蔵野美術大学の教授になられましたが、これからどんなことに力をいれていくのですか?

東京に集まった人材をまた地域に戻していきたいですね。企業が抱えている人材やテクノロジー、流通、マーケティングと地域の困りごとを直接つなぐような社会インフラを作りたい。地域には学びと仕事が足りない。地域に仕事を作りながら、学びを共有できるコミュニティを再編していきたい。

─わかります!地域で暮らす個人としてもそのことはめちゃくちゃ実感します!地域に生きていて、学びの少なさや得意分野の違う人との繋がりがなかなか出来ないので、新しい何かを生み出すのって難しいです。

まさにそこなんですよ。例えば地域で構造計算ができる人がいない、ってなれば社会インフラとして構造計算ができる人に「行ってこーい!ドーン!」と言って仕事を作る。そうやって一度できたことはまたできる。地域に足りないものを補完していく仕組みを作りたいんですよ。

─作って欲しいです!エンジニアさんとかが地域に入ってくるともっと面白くなると思っています。

そうでしょ?やりたいんですよ。今地方が大企業の食い物にされてきている。そうなるとまた30年前と同じ。簡単便利な消費社会ではなく、別の豊かさを地域のものづくりから作っていく。大学の先生なんて絶対にやらないと思ってました。でも、都会と地域をつなぐ社会インフラを作りたいな、と思っていた時に、ムサビが声をかけてくれた。これは呼ばれてる!と思いましたよ。だって、個人のデザイナーより大学の先生の方ができそうでしょ?地域のものづくりが再生していくことは、森にも繋がっていきますからね。これもこれからの10年計画ですよ。

あとがき

取材からの長野への帰り道、一緒に取材に行った榎本さんからの電話が鳴る。「すみません!興奮しすぎて、取材の謝金を渡すの忘れました!!」と。 やまとわが目指すのは、「森をつくる暮らしをつくる」こと。方法は違うけれど、若杉さんたちはすでに18年前から始めていたのだと思うと、嬉しい気持ちになる。森とそこに関わる人が面白くなれば森は変わると思っている。若杉さんは、取材の中で「別に杉だったのはたまたまですよ。自分の名前が若杉だったから、というわけでもないし、思いついたときに、消費社会と自分の家の裏の森の風景が重なって見えたから」と言っていた。裏山ナイス。若杉さんは確実に森の未来をつくっている人、だった。

(聞き手・文 奥田 悠史)

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