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2024.09.20

新しい森づくりを目指して。“SATOYAMA CONCEPT MAPs”がスタートします

やまとわ36oficeから西へ約2キロのところにある鳩吹山。

やまとわでは、一昨年度よりこの山にある約55haの森の管理を任され、所有者である地元の財産区の皆さんや様々な方たちと話し合いながら、森づくりを進めています。(参考 : 生物多様性が守られ、人の暮らしと自然がちょうど良い関係でいられる森づくり。やまとわ 農と森事業部の挑戦

この度、この森の15年後の未来を描いたゾーニングマップ“SATOYAMA CONCEPT MAPs”ができあがりました。
現在の森の姿ではなく、未来の森を描いたゾーニングマップ。新しい森づくりを目指して作られたこのマップに込められた背景について、森づくりをしている農と森事業部のメンバーと奥田が語り合いました。

“新しい森づくり”のために
まずは、様々な視点から森を知る

“新しい森づくり”を目指して作られたゾーニングマップ。一般的なゾーニングマップとの違いはどんなところなのでしょうか?

奥田 : 僕らのゾーニングマップの一番のポイントは、現状に紐づいて森のマップを作りましたというのとは違うというところ。
15年後にどういう森にするのかという指標となるゾーニングをしているので、現状とは異なるマップになっているんです。

川内 : 現在多くの森林で行われている調査の方法というと、現状の森の資源量調査だったり林業ベースの調査になってきます。それは、木材生産のための道作りや整備を基本に考えられて、それを元に森づくりを進めていくのが一般的です。
それに対して僕たちが目指している“新しい森づくり”というのは、そういった林業をベースにした調査ではなく、地形や生態系、生えている樹種などその森の特徴を知ることで、木材生産だけでない価値を考えてその森にあった森づくりをしていこうとするものです。

現状だけを見て考えるのではなく、森の特徴を知り、森の時間軸で考えた森づくりをしていく。なかなか時間も手間もかかることと想像するのですが、未来を描くゾーニングマップを作るために、どんなことから始めましたか?

川内 : 一昨年、小瀧さんとふたりでまずは域内を歩きました。伊那市耕地林務課(現:50年の森林推進課)にあるこの森の森林簿(森林の所有者・面積・森林の種類、在籍や成長量を記したもの)や計画図(樹種や所有形態等で区分けした図面)を見ながら、実際はどうなんだろうという感じで見て回りました。

小瀧 : 最初何から始めたら良いか分からない中、現地調査をしたんですけど。
現状を知ることは大切なので、まず見ておけば問題ないだろうという気持ちで調査をしたところ、カラマツが5割、アカマツが2割、ヒノキ2割弱、広葉樹が1割強という樹種の割合でした。

川内 : その結果を元に、現状の山はこんな感じですというゾーニングマップをまず作りました。

そこから、様々な形で外部の協力を得ながらじっくりと時間をかけて行ったこの森の調査。地形判読や土地の成り立ち、山採りの木として庭づくりに使えそうな木があるかどうか、そして生態系の調査など。
中でも猛禽類の調査を長野市にあるラポーザさんに協力いただいて調べた結果、ハチクマ、ノスリ、オオタカの3種がいることが分かりました。

奥田 : 陸の生態系のトップである猛禽類の種類や数を知ることで、この森や森の近くの田畑にどんな生きものがどのくらいいるのかについても見えてきます。
生物多様性の森づくりと林業的な森づくりを考えようとする時、ふたつの森づくりがぶつかり合ってしまうことがあります。そこをどうやってうまく共存させていくか。
生物多様性の森もあれば、林業的な森もあって、子供達が遊ぶ里山もある。多様な森の活用方法があった方が、活きる植生は多いはずと考えました。

川内 : 初めてこの森に入った時、一般的な林業地としては何か優れているとかそういう特徴のある森ではないなという印象でスタートしました。
その後色んな知見を持った方たちに森を見ていただく中で、信州大学で緑地生態学がご専門の大窪先生には「伊那の里山を体現したようなところ。珍しい樹種ではないけれど、この辺によくある昔ながらのものがちゃんと残っていますね。」と言っていただいたり、長野県林業総合センターの小山先生には「森林簿に人工林と書いてあるかもしれないけど、これは天然の檜だよ」って教えていただいたエリアがあったり。

川内 : 専門性を持った方たちが森に入って、それぞれの視点でこの森の特徴をどんどん見つけてくださって、さらにこの森や周辺でどんな生きものが暮らしているのかも見えてきた。
森の地形判読や土地の成り立ち、歴史的な背景だったり、森に生えている樹種や生態系。この森を知れば知るほど、木材生産ではない別の可能性がたくさん見えて、誇りを持って守っていきたいと思うようになりました。

小さな事業体だからこそできる
やまとわらしい森づくり

15年後の未来を表したという、SATOYAMA CONCEPT MAPs。具体的にはどのような森が描かれているのでしょうか?

川内 : 大きく分けて7つ。保全林、林業地、見晴らしのいい場所、檜の森、あそびの森、薪炭林、広葉樹林というゾーニングになっています。

奥田 : 土砂災害リスクがある保全林は、森林保全エリアとして整備します。林業地は、カラマツとクリの混交林にしながら、長い目で見た木材生産を。見晴らしのいい場所は、一般の方や企業と一緒に森づくりをします。檜の森は、現在ある檜を育てながら、美しい檜林を目指します。
あそびの森では、ツリークライミングなどアクティビティとしての活用、薪を製造・販売する薪炭林。広葉樹では、天然キノコの育成と、山採りの庭木の販売。全体として、生物多様性のある森づくりを目指しています。

川内 : 天然キノコの森では、自然の中でキノコを育てようとしています。ある程度安定して育てるには10年ほどかかると言われていて、取り組もうとする方があまりいないようです。

奥田 : ゾーニングマップは15年後の未来を描いています。自分ごととして考える時に、10年とか15年くらいがちょうど良いように思う。30年後だとちょっと先過ぎる。10年後、小瀧さんはまだ40代。

宮原 : 僕はまだ定年じゃない(笑)

奥田 : 僕らみんなまだまだやれる年齢。誰もやりたがらないような、面倒くささが面白いと思う。

いま挑戦している新しい森づくりについて、小瀧さん、宮原さんはどう感じているのでしょうか?

小瀧 : やまとわは大きな機械を持っているわけではないですし、木材生産のための森づくりは得意じゃない。こういう進め方になってしかるべき、違和感が全くありませんでした。

宮原 : ゾーニングマップを見て、素直にこういう森が作れたらいいなと思いました。
それと森で施業をする時、伐るべき木と残す木って毎回毎回現場で迷う。伐る側の人間としては、やっぱりどういう森を目指したいのかが分かるとすごく作業しやすいんじゃないかな。目指したい森を可視化したゾーニングマップがあることで、より見えやすくなるように思います。

奥田 : 毎年更新するような形で現状を表すマップはあると思うんですけど、目指したいビジョンを共有して現状が違うっていうのはあまりないような気がします。
でも常に結果だけ示していると、何でそうなったのかということが見えにくいんですよね。ただ、それをやろうとすると、お金もかかるし手間もかかる。すぐに利益につながらないみたいなところもあるけれど、そこを変えないといけないんじゃないかなと思っています。
特に、森は長いスパンで考えないといけないので。

川内 : さっき小瀧さんが言っていたように、僕らは小さな設備で必要最小限でしか木材を出せない。でも、木材生産だけではない価値づけをすることでこの森の特徴を生かした森づくりをしていけます。
その結果、木を必要以上に伐らないし、必要以上に出すこともなくなります。この森づくりは、やまとわだからこそできるやり方なのかもしれませんね。

鳩吹山をスタートに
SATOYAMA CONCEPT MAPsを他の森でも

木材生産のための森づくりではなく、その森が持つ特徴を生かした新しい森づくり。
鳩吹山のSATOYAMA CONCEPT MAPs作成の経験は、他の場所の森づくりでも活かされつつあり、そのひとつに京急電鉄と取り組む「みうらの森林(もり)プロジェクト」があります。

奥田 : 京急電鉄さんが60年前から所有していた三浦半島の森(約100ha)があるのですが、この森をこれからどう管理したらよいのかというご相談をいただいたことがはじまりでした。「みうらの森林(もり)プロジェクト」と銘打ってプロジェクトが動き出し、この春から連携がスタートしています。

川内 : まず農と森事業部のメンバーで、資料や各種マップの机上資料からその森のおおよその特徴を把握します。その後、机上では出て来ないような特徴を見つけようと森全体をくまなく歩きました。さらに一定区画の調査地を設定し、樹種や樹高など、より細かな森の特徴を調べていきました。このように森を広く俯瞰してみることと、細部をしっかりみることをあわせて実施することで、その森だけがもつ個性がみえてくると考えています。
このあと、森事業部のメンバーがその個性を活かしていく未来が描ける材料となるよう意識して調査を実施しました。

奥田 : これまで何度も三浦半島に通ってメンバーで森を歩き、森の調査だけでなく、三浦で活動する人や森林をテーマに活動する人たち、地元住民の皆さんへの取材を重ねています。

みうらの森林の編集室のnoteはこちら

川内 : 森の地形判読や土地の成り立ちを調べる際にご助言頂いているジオ・フォレストの戸田堅一郎さんのお話によれば「日本で木材生産性が高くて生産しても安定的な地形というのは、民有林では17%しかない」とのこと。
そうすると、残り83%の森は林業に適さない森になってしまうのですが、83%の中からたくさんの木を出さないといけないのでやむを得ず施業しているのが現状です。でも僕らは当たり前を外して、林業的に見たら向いていない森でも83%の生きる道を考えないといけないと思っています。

小瀧 : 僕たちはハード面で強いわけではなく、一度に沢山の森に手を入れることはできません。だからこそ、マインドとか考え方みたいな切り口で入っていく。そういう点で浸透していくっていうのが、やまとわらしくて面白いなと思っています。

木材生産という視点だけで森を見ずに、様々な視点から森を見つめることで森が持つ特徴を知り、さらに地域の背景や文化も踏まえて未来の森の姿を描く森づくり。
SATOYAMA CONCEPT MAPsは、やまとわだからこそできる“新しい森づくり”なのかもしれません。

“新しい森づくり”が鳩吹山の約55haの森から、少しずつ広がろうとしています。

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