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2024.07.22

なんでも「作ってみる、やってみる」からものづくりはおもしろくなる。手製本の美篶堂とやまとわの「やってみる」から生まれた経木の文具 Shiki bun

「Shiki bun」は、アカマツを紙のように薄く削った経木(きょうぎ)のブランド「信州経木Shiki」から生まれた木の文具ブランド。2022年に「木のノート」からはじまりました。
伊那谷のアカマツでやまとわの職人が削った経木を美篶堂さんがノートに仕上げて下さっています。伊那に美篶堂があるからこそできるプロダクトです。

これまで2タイプのノートを発売し、一冊一冊木の特性があり同じものが二つとない“生きているノート”として、日本だけでなく海外にお住いの方まで多くの皆さまに手に取っていただきました。
そんな信州経木の文具Shiki bunから、この度新しく“木のブロックメモ”がラインナップに加わりました。

今回の“木のブロックメモ”も、手製本の美篶堂さんに製作していただきました。
美篶堂は、長野県伊那市美篶に製本所と東京に事務所を構えている製本会社。
1983年、製本職人の上島松男さんが創業した手製本を得意とする会社です。 スタッフから親方と呼ばれる上島松男さんは手製本の技術を活かし、これまで上製本や特装本、和装本等様々な製本をしてきました。製本技術を生かした自主ブランドのノートやブロックメモなども製作していらっしゃいます。

美篶堂の手製本の技術によって支えられているShiki bun。

工場長でいらっしゃる上島真一さんと製造に携わる小泉翔さんとともに、やまとわの奥田とShiki bunの担当をしている木工事業部ディレクター 吉田が語り合いました。

紙ではなく経木を用いた製本
木であることの難しさと意外な利点

ふだんは、紙を使って製本をしている美篶堂。経木は木そのものの素材。紙ではなく経木を使って製本するにあたって、一番の違いや苦労したところはどんなところなのでしょうか?

上島真一さん(以後真一さん): 紙は工業化されているものなので、ものすごく正確な均一性です。例えば紙の厚みを表す単位は少し独特で、原紙を1,000枚の重さで表します。例えば、厚みが100kgの紙だったら、1000枚で100kgになります。それはほぼ狂わず、厚みももちろん同じ。紙ではそれが当たり前です。
一方で経木は同じ枚数でも厚みが違うということがあるので、いつものやり方ではうまくいかない。特有な工夫が必要になります。

奥田 : す、すみません…。削った時の厚みは合っていても、木の性格によって乾燥中に膨らみやすいものなど、木によってまちまちなので、工業製品のような正確性を出すことはできないんですよ。その違いがある中での製本作業となると、機械ではうまくいかないですよね。手作業だからこそできる。いつもと違う素材の経木を扱うにあたって、最初にどんなことをしたんですか?

真一さん : まずは、経木という素材が本になるのかというところからスタートしました。やっぱり割れが心配だったので、開く端からパリパリッと割れてしまうかと思ったけど、しならせてみると意外と柔軟性があって、これならいけるなっていう。
それから、試しに背を固めてみたんです。そしたら意外と丈夫で、むしろ手間がかからなかった。

美篶堂工場長 上島真一さん

奥田 : え?手間がかからないというと?

真一さん : 紙の場合、固める面にのりを塗るだけだとノド(本を開いたときの中側にあたる部分)まで浸透しない。しっかりと固定して丈夫にするために、特殊な固め方をしないといけないんです。それが、経木はのりを塗るだけでちょうど良く浸透する。“背固め”に向いている素材だと思いました。

奥田 : “背固め”に向いている素材(笑)僕らは経木を製本してもらうにあたって、やりにくさしかないだろうな、と思っていたので、そう言ってもらえるとホッとします。経木ならではの面白さですね。

真一さん : 面白さというか、むしろ利点だと思う。紙の製本時にのりを染み込ませるには手間と技術が必要だけど、経木は塗るだけで自然とちょうど良い具合に染み込んでくれるのでありがたいくらいなんです。

ブロックメモののりつけ工程

経木の特性を知りShiki bunをつくる
何度もやることで見えてくるより良い方法

吉田 : 普通の紙とは違うので製本の作業をするスタッフさんも苦労されるところがあるんじゃないかと想像するんですが、普段よりもしっかり伝えないとできないようなこともありますか?

小泉さん : 今はやり方を変えたんですけど、最初は揃えるのが結構大変でした。断裁で経木に割れが出ないように考えて。
2年前に経木のノートから始まって、その後木のノートの製本を何度もやっているので、どういう手順でどんなことに気をつけたら良いかが色々分かってきています。初めのころとは作業性も含めて随分改善していると思います。

吉田 : 先日ブロックメモを製作している様子を見させていただいたんですけど、裁断ひとつとっても、断面を見ながら刃の入り方を考えて向きを変えていて。こんなに経木のことを理解して、手間暇かけて、より良いものを作ろうとして下さっているということが伝わってきてとても感動しました。

小泉さん : 何回か注文いただいているので、経木の特性だったりやまとわさんが何を求めているかが分かるようになったんです。最初は必要だと思ってやっていた工程も、ない方が仕上げ断ちが綺麗にうまくできるとか、工程がひとつなくなることでコストが下がる事が分かったり。できあがった後になって分かることもあるので、何度もやることで色々改善、より良い方法が見えて来る。それは、紙を使った製本でも同じことが言えるんですけどね。

“なんでもやったるぞ”
美篶堂創業者である親方の上島松男さんの思い

美篶堂では、経木のノートだけでなく手製本でなくては作れない様々な製本を手がけていらっしゃいます。「難しい製本をやりたい」というような、何か美篶堂のマインドみたいなものがあるのでしょうか?

小泉さん : お客様のご希望があればとりあえず試作をつくるみたいなことは、親方(上島松男さん)の頃からやっていますね。

真一さん : 今は親方はケガで現場に立てなくなってしまったんですが、10年くらい前まで現場にいました。最初の工場が東京にあって、そこ一本でやっていた頃は東京中走り回って手作業(職人仕事)でしかできない仕事をやっていた。その時から、色んなデザイナーさんからかなり無茶な製本の依頼が来ても、どんどん受けて何でもやったんです。「ものづくりの良さで何でも作ってみせる」みたいな感じだったのが、その流れで今も来ている。

奥田 : 経木のノートだけでなく、デザイナーさんがデザインする特殊な製本をして市場流通できるところって他にないんじゃないでしょうか。美篶堂さんがそこのなんでもやってみよう、を辞めてしまったら、困る人が続出してしまう…。木のノート、ブロックメモを作ってもらっている僕らもすごく困りますし…。

木のブロックメモと木のノート

真一さん : 他にこういう手製本を今もやっていたり、やれるところはほとんどないでしょうね。昔ながらの技術を持っている親方と同じ世代の職人がいらっしゃるかもしれないですけど、いきなり特殊なものを持ちこまれてもできるかどうかは分からない。

小泉さん : 技術的にものすごく難しいことばかりではないと思うので、数冊だけとか、束見本をつくるとか。そういうことはできるところはあるかもしれないけど、それなりの量産となるとやれるところは確かにあんまりないと思います。
それは、やる前に採算ベース、量産体制を考えてしまうからな気がします。私たちももちろん採算について考えますが、まずやってみよう、どうやったら実現できるんだろう?から考えているから、結果的にできているように思います。

奥田 : めちゃくちゃいい話…!!“採算が取れない”という理由で、世の中から消えてしまうものづくりって社会にたくさんあるような気がします。製作に関して相談しても規格にはまらないからできないという話になってしまう。その結果、やりやすかったり、規格化されたものしかできないし、残っていかなくなってしまう。

それに加えて、ものづくりにはなんとなく試すこともなく止めてしまうこともあります。経験による思い込みってありますよね。例えば「ヤニがすごいよ」と言われてあまり家具では使われない樹種を製材してみたら、そうでもなくて使いやすい素材だったり。

小泉さん : ふだんの製本で使っている紙で想定していることと、紙が経木になった時はやっぱり違うことが起きます。でも経木の特性を考えて、いつものやり方を少し変えることでうまくいく。
経木をつかって製本をしたことがなかったけれど、ソフトノートから始まってハードカバーのノート、今回のブロックメモ。色んな形態をやらせていただいているので、違うつくり方なんだけど共通のやり方があるから「こっちでできるんだから、こっちでもできるよ」みたいなことがあるんですよね。

奥田 : 僕らは、伊那谷の木にこだわってきたし今ももちろんこだわっている。経木で言えば、地域にアカマツが多いしアカマツが良いと言われているので材料にしているんですけど、例えば長野県内で使い道がない材があればそれを使ってみても良いんじゃないかなと思っているんです。
この前実験的に別の木を経木にしてみたんですけど「削りにくいかもしれません」と経木の職人も言っていたけど、削ってみたら意外と問題なく削れたんですよ。しかもアカマツとまた違う木目で、反りにくいことも分かってこれは面白いって。

小泉さん : それは確かにあって、良くないよって言われていることでも実際に試してみる。その人がやるかどうかで、ちょっとした設定の違いでできたとか。「似たようなことを過去にやっていませんかね?」って相談してみたら、やったことがあって実際に試してみたらできたとか。

美篶堂 小泉翔さん

奥田 : どんな難しい状況になっても、考えてみる。「こうやったらできるのではないか?」とやり直してみる。そういう美篶堂のルーツがあるからこそ、Shiki bunが作れるんですね。ありがたやです。

小泉さん : 難しいと思うこともとりあえず試してみないと、可能性が狭まってしまいますから。やってみたら思わぬところで過去の経験とつながっていたり、っていうのがやっていて楽しいです。やってみて、どうしてもできない場合は仕方ないですけどね。

藤原印刷さんが表紙と中面1ページ目を印刷 “木のノート B6”

奥田 : 印刷は今やネットプリントが主流ですけど、ネットで頼むと選択していくだけじゃないですか。紙の質や厚さを選んで、4色刷りでこれで…っていうように用意されたものの中から選んでいく。そうすると、頭がそういう狭い思考になってしまうんですよね。
それが、例えば藤原印刷さんのような会社さんと打ち合わせをしながらだと「この印刷の仕方だったら、こういう表現ができますよ」とプロの目線の提案によって僕らの発想もどんどん豊かになっていきますし、より良いものができていく。

小泉さん : 今回のブロックメモも、当初予定していた厚紙の厚さだと難しかった断裁が、少し薄いものにしてみたらできたんです。厚い方が重要なのかそれとも厚さは関係ないのかということを、打ち合わせの中で確認していくことでベストな方法を見つけていける。やっぱり顔を見て話すからこそ、できることってたくさんありますよね。

伊那谷でつながるものづくり
Shiki bunのこれから

伊那谷のアカマツを使ってやまとわで経木にし、美篶堂で製本する。
より良いものをお客様に届けるために、打ち合わせを繰り返しながら美篶堂さんとともに経木の文具Shiki bunを製作してきました。

やまとわでは、アカマツ以外の樹種でつくる経木の可能性を見出し、美篶堂では経木の製本から得た経験によって、Shiki bunの新たな可能性が広がりつつあります。
Shiki bunのソフトノート、ハードノート、そしてブロックメモ。
今後も、美篶堂さんと一緒に「できないとされることを、できるように考える」過程を楽しみながら伊那でできるものづくりを続けていきます。

Shiki bun 木のブロックメモについて
サイズ : 約8cmx8cm
枚数 : 80枚
価格 : 1,650円(税込)
経木 : 信州伊那谷産アカマツ
製本 : 美篶堂


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