読みもの・お知らせ
2022.03.15

木の心地よさを科学する。5つの実験結果から見えてくる効果とは

森の中や木質空間にいる時に、何となく心地よく感じるという経験をしたことがありませんか?森林や木質空間には、フィトンチッドや1/fゆらぎが存在し、それらが人に良い効果を与えていると言われています。

私たちが働いているやまとわの36オフィスは様々な木材を使った木質空間。無垢材の椅子や机、棚を使っています。ここを訪れて下さるお客様から「良い香りがするね」「落ち着く空間だね」と仰っていただくことも多く、私たちも毎日とても快適に仕事をしています。

木が心地よいと感じる感覚は、どこから来ているのでしょうか?また、“心地よい”の基準はどんなところにあるのでしょうか?今回、実験結果などをもとに5つの効果をまとめてみました。

目 次
1、癒しや安らぎを与えてくれる木の香り
2、気持ちを穏やかにしてくれる木目
3、“木のぬくもり”は生きもののぬくもり
4、マウスの実験から見えてくる木材の熱伝導率の効果
5、聞こえる音も聞こえない音もやわらかく

癒しや安らぎを与えてくれる木の香り

嗅覚は五感の中で唯一、感情や記憶、本能を司る脳の”大脳辺縁系”に直接繋がっています。香りを嗅ぐとすぐに感情の変化が起きるのはこのためで、好きな香りをかいで気持ちが落ち着いたり、前向きになったりした経験があるという人も多いのではないでしょうか。

樹木や草などの植物は、自分自身を守るためにフィトンチッドと呼ばれる様々な物質を出しています。フィトンチッドの成分は数百種類もありますが、香りが癒しや安らぎを与えてくれる効果を持つものもあることはよく知られています。

天然乾燥ヒノキ材チップを用いた生理的リラックス効果を調べた実験があります。女子大学生19名を被験者に、目を閉じた状態でにおい供給装置によって毎分3Lの流量で供給されるにおいを90秒間嗅ぐというものです。

天然乾燥ヒノキ材の嗅覚刺激による右前頭前野活動の1秒毎の経時的変化/参考 木と人の関係ーサイエンスの視点からー第7回「木の香りを嗅ぐと」

グラフは右前頭前野活動の様子を表していますが、徐々に鎮静化し脳がリラックスしていることが分かります。左前頭前野活動でも、同様の変化が見られたといいます。

また香りには好みがあるもの。別の実験では、スギやヒバの香りを“苦手である”と感じる人にスギやヒノキの香りを嗅いでもらって血圧測定を行いましたが、血圧が上昇することはなかったという結果が出ています。つまり大変興味深いことに、香り自体は苦手であると感じたにも関わらず血圧が上昇することはなく、そのことがストレス要因にはならなかったのです。

気持ちを穏やかにしてくれる木目

木材には様々な木目があります。代表的な板目や柾目のほか、所々節があるところもあったり色が異なっていたり、同じように見えても少しずつ異なっていてひとつひとつに個性があります。そんな木目には、自然界のあらゆるところに存在する1/fゆらぎが存在しています。
1/fゆらぎには、人が心地よいと感じる独特のリズムがあり、安心感を与えてくれると言われています。

木目が美しい経木。やまとわでは経木の生産を行っています

もう一点、木材には細かな凹凸があります。この凹凸が光の正反射を少なくすることから、真っ白な壁紙やガラスに当たった光に比べて木材に当たった光はやわらかくなり、“まぶしさ”を吸収してくれています。

ゆらぎのある優しい見た目とまぶしすぎないやわらかな光は目にも優しく、木質空間で長く過ごしていても疲れが少ないということが言えるでしょう。

“木のぬくもり”は生きもののぬくもり

「木のぬくもり」という言葉をよく耳にします。1/fゆらぎが存在する木目の視覚的効果によるリラックス効果はもちろん、実際触ってみても落ち着くようなあたたかみを感じます。そのぬくもりはどこから来ているのか、また木に触れた時私たちの身体にどんな変化が起こるのでしょうか。

異なる素材に触れた時、それぞれどんな反応があるのかを調べた実験があります。
20歳代の女子大学生・大学院生18名が目を閉じた状態で、木材(ホワイトオーク)とその他の素材に手で90秒間触るというもので、「素材をなでる」のではなく「素材の上に手のひらを置く」というシンプルな接触の実験です。

木材に手で触れたときの左前頭前野活動の変化:他素材との比較/参考 木と人の関係ーサイエンスの視点からー第4回「木に手で触ると」

その結果、他の素材と比べて木材を手で触ることは高すぎる脳活動を鎮静化させ、リラックス時に高まる副交感神経活動が高くなるというリラックス効果をもたらすことが明らかになりました。(木材の種類をヒノキやスギに変えてみても、同じようにリラックスすることが分かっています。) また、塗装の種類を変えた実験結果もあり、これによると無垢材の方が他の塗装材に比べてリラックス効果をもたらすことが分かっています。

木材に手で触れたときの副交感神経活動の変化:他素材との比較 ※HF(高周波成分)はリラックス時に高まる副交感神経活動を反映/参考 木と人の関係ーサイエンスの視点からー第4回「木に手で触ると」

マウスの実験から見えてくる木材の熱伝導率の効果

また、30年以上前に行われたマウスを使ったこんな実験があります。静岡大学で行われたもので、木製とコンクリート製、鉄製の箱にそれぞれマウスを入れて成長から繁殖、第2世代のマウスの成長を観察するという内容です。

第2世代のマウス23日齢の生存率を見てみると、木造が85.1%と最も高く、コンクリート製が41.0%、鉄製が7%ほどしか生き残ることが出来なかったという結果になりました。これには、熱伝導率(熱の奪われやすさ)が大きく影響しています。

あたたかいものと冷たいものが隣り合っている時、温度が高いものから低いものへと熱が動く現象が起こります。伝導率が大きければ大きいほど、熱が移動しやすく奪われやすいのです。

参考/株式会社渡辺工務店

木材の熱伝導率は、コンクリートの約10分の1、鉄の約500分の1。木の細胞は複数のパイプ状の繊維で構成されており、最も熱を伝えにくいとされる空気で満たされているため、熱伝導率が低いのです。つまり、熱伝導率の低い木製の箱のマウスは体温を奪われることなく過ごすことができ、生存率が高くなったと言えるでしょう。

木に触れる時“あたたかい”と感じるのは、木が私たちの体温を奪わず心地よいと感じるためではないでしょうか。

聞こえる音も聞こえない音もやわらかく

音に対する効果はどうでしょうか。

木材は、低音から高音までバランス良く音を吸収する力があるといいます。下記の実験結果を見てみましょう。様々な素材を用いて行われていますが、他の素材に比べて木材が高い音も低い音も最もバランス良く吸収していることが分かります。多くのコンサートホールで木材が使われる理由が分かりますね。室内に木材を使うと不快な雑音が吸収されるという効果が期待できます。

参考/株式会社マルホン コラム「見る木活かす木」

また、人間が聞こえる音は20ヘルツから20,000ヘルツと言われています。20,000ヘルツ以上の“超高音波”は、自然界の川のせせらぎや虫や鳥の鳴き声などに多く含まれています。

近年の研究によると、この超高音波を遮断してしまうと生理的に不快感を持ち、逆にこれを耳にすると脳にリラックス効果を与えて活性化するという研究結果が出ています。そんな超高音波をコンクリートはシャットアウトしてしまいますが、木材は適度に通すことが分かっています。自然が身近にないような都心でも、木質空間にいると超高音波によるリラックス効果を期待できそうです。

“環境にやさしい”は人にもやさしい

ここまで、様々な実験結果から木材が人に与える様々な効果を見てきました。

木は二度生きるといいます。木材になって加工された後も、本来の力を生かせるような塗料を用いた無垢材であれば、その香りや手触り、見た目、音の吸収など様々な場面で私たちの暮らしに優しく寄り添ってくれるのです。

近年、木目を印刷した壁紙やフロアマット、木材を細かくした後に再び接着剤で固めたものや重ね合わせた合板など、安くて便利に“木材らしいもの”に触れる機会はたくさんあります。しかし残念ながら、それらしい雰囲気は出せたとしても、これまで見て来たような木が本来持っている力を期待することは出来ません。

カラーボックスに使われている板。木材を細かくし、接着剤を使って再び板にしている

SDGsやサスティナブルといった言葉を聞かない日がないくらい、循環型社会や脱炭素に向けた取り組みが近年沢山行われています。木を使うことは、鉄などの資材よりも製造や加工、建築時に要するエネルギーが少ないことや、木は伐った後に植樹すると循環していく素材であることから注目されています。

地球や環境にやさしいということは、私たち人間にもやさしいということ。持続可能な社会を生きていくために、もう一度木材の本来の良さを見つめ直してみませんか。

【参考文献】
     「ゆらぎの発想 1/fゆらぎの謎にせまる」武者利光著(NHK出版)
     「森林医学」森本兼嚢、宮崎良文、平野秀樹編集(朝倉書店)
     「森林療法ハンドブック」降矢英成編(東京堂出版)
     「自然の中の人間シリーズ 森と人間編⑤森のふしぎな働き」谷田貝光克著(農文協)
     「自然の中の人間シリーズ 森と人間編⑩木は万能選手」中野達夫著(農文協)
     「森の総合学習 森の科学2 森の不思議をさぐる」七尾純著(あかね書房)
     「森と一緒に生きてみる!」谷田貝光克著(中経出版)

【参考サイト】
      木と人の関係ーサイエンスの視点からー
      株式会社マルホン コラム「見る木活かす木」
      木の家の健康を研究する会
      マウスの実験から木造とコンクリート造を考える
      生物学的評価方法による各種材質の居住性に関する研究(1987年 静岡大学農学部)
      株式会社渡邉工務店

私たちについて豊かな暮らしづくりを通して、
豊かな森をつくる

森の資源を使った楽しい
暮らしの提案を通して、
森と人の距離が近い未来を考える。
森と暮らしをつなぐ会社として
社会をよくしていく。