みなさん、こんにちは。森事業部の榎本です。
現在、私は伊那西小学校の教育アドバイザーとして月に数回伊那西小学校の理科の授業サポートをさせていただいています。今日は、そんな伊那西小学校での取り組みの様子を、記事に書きたいと思います。
伊那西小学校は、伊那市の西駒ケ岳の麓にある小さな学校です。学校の目の前には1haほどの森があります。アカマツ、コナラ、サクラの類、カエデの類など、40種類以上の木が生えている多様性のある森です。休み時間になると、子供たちは森の中へ出ていき、虫を捕まえたり木の実を集めたりして遊んでいます。
その森の中には、今から約20年前にPTAの方々が建てられた「森の教室」があります。この小学校では、その教室を使って国語や算数、理科や音楽の授業をしたりもしています。森の中には、いつも子供たちの元気な声が響き渡っています。
そんな、絵本に出てくるような温かい小学校ですが、年々生徒数が減少し、今年度は市内で最も生徒が少ない学校の1つとなってしまいました。
このまま児童数が減ってしまうと、廃校の危機を迎えてしまいます。
地域の核といっても過言ではない小学校、色んな人たちの沢山の想い出が詰まっている場所。
伊那西小学校は、児童数を増やすために、学区外の色んな地域の児童の受け入れも行える「小規模特認校」の認定を受けました。そして、伊那西小学校の特色ある学びとして「自然に親しみ、科学する」、森を活かした、自然科学に特化した学びを行っていくという指針を立てました。
学びの指針を立てるに当たって、弊社の他にも、東京大学大学院の助教授である黒河内寛之先生をはじめ、色々な地域アドバイザーの方が関わりながら学びをつくりました。そして、特認校がスタートして初めての“学びの指針(カリキュラム)”が出来ました。
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《 伊那西小学校の特色ある教育の基本指針 》
①豊かな自然の中で学びます。
②地域に根差し、地域と共に歩みます。
③少人数を活かして、学力向上を図ります。
《 4年生~6年生の学習カリキュラム 》
4年生「コナラの萌芽更新と里山文化の研究」
昔、人は里山から山の恵みをもらって生きていました。里山から木を伐ってきて、きのこを作ったり、炭を作ったり。今回は、観察林内にあるコナラの萌芽更新の様子を観察しながら、キノコの原木を自家調達するまでの道しるべを学びます。
5年生「リタートラップを使ったリターと気象の関係性の研究」
森の中にリター(落ち葉や木の実など)を集めるトラップを8カ所設置。そして、月に1回その中身を採取・種類ごとに分けて、重さを測りデータを記録します。季節ごとのリター量の変化と気象条件などを照らし合わせながら、考察をします。
6年生「植生遷移の研究」
2m四方の正方形の中に、どんな植物が生えてくるのか観察・記録をします。3月に皆伐したエリアの萌芽更新の調査も行いながら、複合的に森を見つめ、未来の姿を考察します。
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私たちはこの学びを通して、“森と人は密接に関わり合いながら生きているんだよ”、という価値観を養ってほしいと思っています。記念すべき第1回目の授業がはじまる時に、東京大学大学院助教授であり、伊那西小学校の教育アドバイザーでもある黒河内先生から2つの教えをいただきました。
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《 黒河内先生の教え 》
①人数が少ないので、1人1人の力が大切になってくる
②“答えがない”から、みんなで答えを見つけて欲しい
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つい先日も、5年生の授業に参加してきました。
“リタートラップに落ちていたものを種類別に分けて重さを測る”という少し難しそうな内容でしたが、楽しそうな雰囲気の中、生徒1人1人に色んな気付きがあった活気のある授業でした。
しかし、この授業をスタートした当初は前途多難でした。
限られた時間内でどうやって授業を構築し、結論まで持っていくか。担当する先生は必死に考えて授業に挑みますが、毎回手探りの状態でした。私自身、授業中の子供たちの様子を見ていて、授業内容のレベルが高すぎるのではないかと不安になっていました。
伝えたいことはいっぱいあるのだけど、それをどうやって小学5年生に伝えたらいいのか…。
授業が終わるたびに、関係者で何度も話し合いをしました。そこで、「数値の分析だけでなく、実物に触れた、子供たちの声や感性を大切にしたい。もっと森とのつながりを大切に授業をしていこう。」という意見がでました。もっと森とのつながりを子供たちに意識してもらうためには、もう少し木の生態について学んだ方が良いのではないかということで、「アカマツの1年間の移り変わり」というテーマで授業をする機会もいただきました。
(※伊那西小学校の森の中で1番多く生えている木はアカマツなので、今回はこの木を選びました。)
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\\ ここでちょこっと森の豆知識 //
①松ぼっくり(アカマツの種)は、約1年半かけて出来るって知っていましたか?
②松ぼっくりは“種の保育器”の役割をしていて、種そのものではないって知っていましたか?
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ほんの少し子供たちの知的好奇心をくすぐると、こんなにも変わるものなんですね。
「アカマツの1年間の移り変わり」について授業をした後は、今までよりも生き生きと、“じゃあこれは何で落ちているんだろう?”と学びを深めてくれていました。予想以上の反応を示してくれて、心から嬉しかったです。
その都度話し合い、工夫を繰り返してきた授業。担当している先生も毎回毎回一生懸命考えて、全力で取り組んでいらっしゃいました。
だからこそ、授業の雰囲気も回を重ねるごとに良くなっていく。
子供の表情が生き生き、先生の表情も生き生き。
楽しい空気の輪が広がっていきます。
子供たちの“観察力”や“気付く力”は本当にすごいです。今まで記録してきたデータを比較して、「何でその月毎にリターの量が変わってくるのか?」という先生の問いに対して、色んな意見をどんどん出してくれます。数回でこんなにも授業の雰囲気が変わるものなんだと、本当にびっくりしました。
黒河内先生が仰った「ないところから答えを見つける」。
その力は、私たち大人が今、最も必要とされる能力の1つなのではないでしょうか。
(自分で書いていて耳が痛いですが・・・。)
社会課題を解決する上でも、学校の宿題のような決まった答えは1つもありません。
私たちやまとわも今、「森と暮らしの距離を近づける」ために、ない答えを必死に探しています。
この授業は、伊那西小学校だからこそできたものだと思います。子供の知的好奇心をくすぐって、一緒に授業を作り上げていく先生のパワーとその姿に感銘を受けました。
伊那西小学校について興味を持ってくださった方は、ぜひネットから「伊那西小学校」と検索してもらえると嬉しいです。伊那西小学校の日々の様子が、ブログを通して見ることができます。
来週も、伊那西小学校へ授業に行く予定ですので、引き続き、“森の授業”の様子を綴っていけたらなと思います。