読みもの・お知らせ
2021.10.05

森の中で車座になってクラフトビールを

伊那市のクラフトビール醸造所、In a daze Brewing(イナデイズブリューイング)さんから、伊那谷のアカマツの葉と青松ぼっくり(まだ青くて若い松ぼっくり)を原料につかったクラフトビール「森の座ペールエール」が誕生しました!

In a daze Brewingは、醸造家の冨成和枝さんが2018年に開業したブルワリー。開業当初から、伊那谷の農産物を使ったクラフトビールづくりに力を入れています。伊那のお米を使った商品「権兵衛IPA」や中川村のメイヤーレモンを使った「くらしセッションエール」などなど。それぞれの商品に地域の生産者さんとの繋がりがあります。

クラフトビールといっても、ビールというくらいだから「麦芽とホップ」くらいのイメージしかなくらいのクラフトビール初心者の私だったのですが、「クラフトビール」……、知れば知るほどその面白さに感動します。

50パーセント以上が麦芽であればビールになるということで、50パーセント未満が別の原材料(副原料など)でも作れるそうです。もちろん原料の比率などで味が変わるので、美味しいレシピづくりこそ醸造家の腕の見せ所。
地域の農産物や素材を使ってある種全く新しいものに変えることができるクラフトビール。その懐の深さを知り、地域にクラフトビール醸造所があるというのはとても幸せなことだと思います!

アカマツを使ったクラフトビール作りの始まり

今回のアカマツを使ったペールエールは、伊那谷で活躍する木こりチーム、「NPO森の座」さんと冨成さんのコラボ企画。森の座さんというのは、木こりがチームになって、森づくりから森の資源の販売までを手がけるめちゃくちゃ素敵な団体です。

森の座のメンバーで、木こりの唐澤千夏さんが「アカマツの葉や実でクラフトビールって作れないかな」と冨成さんに話したのが始まり。ヨーロッパでは針葉樹の実をホップの代わりに使ってきた歴史があるそうです。そのことを知っていた冨成さんが「できると思うよ」と応えたのが、伊那谷のアカマツを使ったクラフトビール作りの始まり。

唐沢千夏さん(真ん中)
醸造家でIn a daze brewing代表の冨成さん

伊那のアカマツを使ったクラフトビール

「アカマツ」という樹木をどのくらいの方がご存知かわかりませんが、伊那谷の森の1/4はアカマツと言われるくらい、この地域にたくさん生えている木です。しかしこのアカマツ、原木市場ではあまり価値が付かないという問題があります。森の木々にどうやって価値をつけていくか。それは、森づくりをする上でとても大切な視点です。一本の木を無駄にしない。せっかく伐採する木は、枝葉までなるべく使いたい。森の座さんたちはそのことをいつも見つめているチームです。
さらに、アカマツは今、とても大変な運命の中にいます。それが「松枯れ病」という病。昭和中期に輸入木材とともにマツノザイセンチュウというセンチュウが、アカマツに入ることで道管(水を吸い上げる器官)を詰まらせて枯らせてしまうのです。そして、この松枯れ病は、標高の低い地域の松をどんどん枯らしてしまいました。少しずつ標高を上げて、標高700mを超える伊那谷地域まで入ってきてしまいました。

松枯れのアカマツ(葉が落ちている)
松枯れの進行によって倒木したアカマツ

この地域の松も放っておけばどんどん枯れ上がってしまいます。そして枯れてしまうと、それは材木としても使えず、いつ倒れるかわからない厄介な木々に変わってしまうのです。せっかく50年、80年と生きてきた木々が最後には厄介ものになってしまう。こんな悲しいことはありません。

だからこそ唐澤さんは枯れる前のアカマツを使ったクラフトビールが作れないか、と提案しました。ちゃんと価値ある形でアカマツを生かしたい。
その話を聞いたときに、森が少しずつ荒れてしまっている現実を初めて身近な問題に感じたという冨成さん。

森の座代表の西村智幸さんから「大事にしている言葉があります」と話してもらったことがあります。それは、「自然は子孫から借りているもの」というネイティブアメリカンの言葉。子孫からの借り物である森を少しでもいい状態で返していきたい。西村さんたちは、地域の森に手が入らず、少しずつ荒れてしまっている現実を見つめながら、森と向き合っています。だからこそ生まれたコラボレーション。

アカマツを使ったクラフトビールづくりは、2020年からスタート。1年目はOFIB(オーエフアイビー)という名前で販売。木の葉を素材にするのは富成さんももちろん初めて。試行錯誤しながらレシピを開発。味の評判も好評。
2年目となる2021年には、名前を変えました。NPO森の座さんの名前の由来は、「いろんな人が森の中で車座になって話している風景」からきています。冨成さんもそんな風景こそこの商品にぴったりだ、と「森の座」と名付けました。

パッケージにはアカマツの木を使う

森の座ペールエールは、杏のようなみずみずしい酸味と香りのあとに、鼻を通り抜ける松の清涼感がスッキリと感じられます

缶のパッケージラベルには信州経木Shikiを使ってくれています。本物の木を使っているから、一本一本少しずつ表情が違います。
このパッケージは機械張りでは難しいかもしれません。一回に仕込める量が限られるクラフトビールだからこそできる挑戦だと思います。
地域の資源をちょうどよく使う。アカマツの葉や青松ぼっくりは森の座さんチームが収穫したもの。
僕も現場に同行させてもらいましたが、その光景は、まさに「森の座」でした。木々の隙間から陽光が差し込む中で、みんなで笑いながら枝から葉や青松ぼっくりを外していく。

その素材を冨成さんが美味しいクラフトビールへと仕上げていく。そこに僕らが伊那の木で作った経木を、ラベルに貼る。
手作りだからこそできること。手貼りだからこそできること。地域資源を使うというのは意外と難しく、工夫がたくさん必要です。冨成さんはアイデアと愛情を持って、そのハードルを飛び越えて、たくさんの食卓に森の香りを届けてくれています。

「森の座ペールエール」を通して、森と暮らしが繋がっていくのではないかと思うとワクワクしますね。みなさんもぜひ飲んでみてください!

左から森の座・西村さん、In a daze brewing・富成さん、やまとわ・奥田

In a daze brewingさんのサイトはコチラ

最後に、「NPO森の座」さんの設立文書がとても素晴らしいので一部抜粋で掲載します。

「森は海の恋人」と言われます。「森と人は友情」によって共にはぐくまれてきた、とも聞きます。この空を、森を、守り育ててきた先人たちは、森と海の恋を、森と人の友情を、確かに感じていたでしょう。そして、次世代に伝えることに力を注いできたはずです。

今、私たちは、そんな先人たちが守り育ててきたはずの全てから、遠ざかりつつあるような不安を感じます。今を生きる私たちが未来の子どもたちに伝えなければならないこと。それは、母なる森に教えを請い、先人の知恵や言葉に耳を傾けつつ、未来の子どもたちに大切な贈り物を遺すことです。

NPO森の座

長い歴史の中で育まれてきた経木についてはこちらからどうぞ!経木の歴史

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