国土の3分の2を森林が占めている日本。日本人は木と共に生きて来た民族であり、“日本の歴史と文化は木の歴史と文化”であると言っても過言ではないでしょう。毎日の暮らしに必要な身近な道具から住宅まで様々な場面で木が使われており、生活文化や様式を代表するものは木製品だったといえます。
暮らしの変化と科学技術の発達により、プラスチックやセラミック、鉄やコンクリートなど様々な素材が使われる現代ですが、木材は今でも私たちの身の回りで使われています。
柾目と板目が持つメリットとデメリット
木製品に近づいて見てみましょう。模様があります。この模様のことを木目(もくめ)といいます。
木目には大きく分けて柾目(まさめ)と板目(いため)のふたつがあります。専門的にいうとほかに杢目(もくめ)などもありますが、木工製品を説明するのに最も使われるのがこの“柾目”と“板目”です。
柾目と板目にはそれぞれどんな特徴があって、どんな風に使われるのでしょうか。
一度理解したつもりでも、実際に目の前にすると忘れてしまうくらいややこしい柾目と板目。柾目と板目について図を見ながら特徴をつかんでみましょう。
伐採して最低限の処理をした状態の木のことを“原木”といいます。(“原木椎茸”といいますね、原木で育てる椎茸のことを指します。)
使用する木材を原木から切り出すことを“木取り”といいます。木取りをする際、木材をどのような角度でとるかで木目が決まります。
原木の芯から外に向かって製材すると現れる、平行な木目。均等で揃っている木目を柾目(まさめ)といいます。
柾目は、水分を吸収し放出する調湿力が板目よりも大きく、収縮や反ってしまうなどのクセがほとんど出ない特徴があります。このことから「正しい木目」と書く漢字の通り、見た目が美しく狂いが少ないため日本では古くから好んで使われてきました。しかしながら板目と比べると、一本の木から取れる量が少なく価格的に割高になってしまうことが難点です。
一方の板目(いため)は丸太の中心からずらすと現れる、ヤマ形・タケノコ形の木目。木目がランダムに曲線を描き、一本の木からも同じ木目のものはとれません。水分を通しにくい性質があります。変化に富んだ木目を楽しめますが「反る木目」と書く漢字の通り、柾目と比べると収縮、反りなどの狂いが出やすいことが難点です。
木目の個性を生かしたものづくり
柾目と板目の特徴を生かしたものづくりを説明するために分かりやすいもののひとつに“桶”があります。かつて桶は台所からお風呂場まで、身近な道具として使われていました。現在、様々な桶がプラスチック製になってしまっていますが、今でも木の特徴を生かして使われているのが“寿司桶”と“味噌桶”です。
(味噌桶は”味噌樽“ともいいますね。ふたがあるかないかや、形状の違いで呼び方が変わることがありますが、ここでは木目について注目していきます。)
寿司桶に近づいて見てみましょう。
平行にそろった木目が見えます。これが柾目です。寿司桶は、熱々のご飯を入れてすし酢と混ぜ、急いで冷まさなくてはならないため、ほどよく水分を吸収する柾目は酢飯がべちゃっとするのを防いでくれます。また、使用後には洗って乾かすため、湿潤と乾燥を繰り返すことになります。柾目の特徴は調湿効果が高いことと、収縮や狂いが少ないことから、寿司桶にはピッタリの木目といえます。
もうひとつの味噌桶、こちらはどうでしょうか。
ランダムな山形の模様が見えます。これが板目です。板目の特徴は水分を通しにくいことと、乾燥に伴う収縮や反りが起こること。長期間にわたり微生物によって発酵させる必要がある味噌づくりは、水分の蒸発を防いでくれる板目の特徴がとても役に立ちます。また、板目のデメリットである乾燥に伴う収縮や反りなどの狂いも、常に湿潤の状態である味噌桶ではそれほど心配いりません。板目を生かした桶は、味噌だけでなく同じように長期間の熟成が必要な醤油や酒造りにも利用されています。ウイスキーやブランデーを作る樽も同じですね。
木目に注目してみることで、木目には見た目の違いだけではない特徴があることが分かり、桶に注目することで利用する目的に合わせたものづくりが行われてきたことが分かりました。
今回は入り口として木目の紹介をしましたが、他にも木材が持つ性質はたくさんあります。ひとつひとつの木製品には、木の個性を生かした職人さんたちの知恵と技がたっぷり詰まっているとともに、木とともに紡いできた日本独自の歴史と文化が見えてきます。
木は今も昔も私たちの暮らしのなかで生き続けています。