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2021.09.17

いくつもの視点から森と人の未来を考える。国家資格 フォレスター(森林総合監理士)とは?

フォレスターという資格を知っていますか?フォレスターとは森林総合監理士の通称で、日本では2016年に始まった新しい国家資格です。ヨーロッパではフォレスターは身近な存在であり、スイスでは多くの男の子が憧れている職業で将来なりたい職業の上位に上がるそう。しかしながら、日本ではまだ馴染みがありません。

森林総合監理士(フォレスター)とはどんな資格なのか、そしてどんなことが出来るのか。
フォレスターの資格を持つ、農と森事業部の川内洋輔さんに経歴に触れながらお話を伺いました。

刺激を受けた林野庁時代の出会い

川内さんは、信州大学農学部森林科学科の出身。大学で森林について学ぼうと思ったのは、幼いころから休日に家族で山や森に出かけていたことがきっかけだったといいます。
大学卒業後に、林野庁に入庁した川内さん。岩手県の宮古市で勤めていた時、地元の釜石森林組合の取り組みに触れたことで大きな刺激を受けたそう。

川内さん : すごく熱意のある参事さんと出会い、影響を受けました。森林組合の設計と現場の垣根をなるべく取り払っていきたいという思いがある方で、採用して最初の2年間は事務作業もやらせるし、現場作業もやらせる。2年間必ず両方やらせてみて適性を見てから採用区分を決めていました。
ひとりひとりが会社の経理情報なども知っていて、「自分達の作業がどのくらいコストがかかり、どう売上げにつながっていくか」というのを計算しながら作業していることにすごく感動しました。
振り返ってみると、この時の出会いが後にフォレスターの資格取得や、やまとわに転職する大きなきっかけになったと思います。

森づくりの計画を立てて、自ら木を伐る

林野庁に9年間勤めた後、やまとわに入社します。一大決心をしたように感じますが、キャリアチェンジしたきっかけが何かあったのでしょうか。

川内さん : 綿密な人生設計があったわけではないのですが、実は林野庁に入った時から、10年くらい行政として森づくりに関わった後は自身で森づくりをしていきたいと考えていました。
大学で学んでいた時にすごく進路に迷っていた時期があって。現場で林業人として生きていきたいなという思いもすごくあったし、行政として森林に関わるところも経験してみたい。どっちに行くかすごく悩んでいました。
でも当時は、大学4年間学んで林業をやるという人もほとんどいなかったですし、その覚悟が自分にはなかったんですね。行政を経験するにしても、あまり中途採用という枠がなかったので「新卒で今入らないと行政の仕事は経験できないかもしれない」という気持ちから、まずは林野庁に入ることを決めました。
若干結論は先送りしつつも、まずは10年くらい行政で働いて、その後に山に直接飛び込めるような計画で生きてみようかなと。キャリアチェンジは、自分で考えていた10年が段々近づいて来たなっていうタイミングだったんです。

森林組合など他の事業体も選択肢にある中、出来たばかりの新しい会社 やまとわを選んだ川内さん。やまとわを選んだ理由はどんなところにあるのでしょうか。

川内さん : 森林組合っていう大きな母体だとどうしても設計と現場作業が完全に分かれていることが多くて、それだと両方が経験できないなと思いました。林野庁時代に出会った釜石森林組合みたいな考え方の組合は全国でも珍しいので。釜石森林組合の参事さんに影響を受けて、自分の中には“自身で設計して、なおかつプレイヤーとして木を伐ってみたい。そして次の計画を立てる時に、前回の経験をどう生かしていけるかということで森に関わりたいな。”という気持ちが芽生えていました。やまとわではそれが一から出来そうだなというところに魅力を感じて、入社しました。

木と人と年月。複数の視点から森を見つめる

2019年、川内さんは様々な視点から複合的に森を見ることを求められる 森林総合監理士(フォレスター)を取得します。フォレスターとはどんな資格なのでしょうか。

川内さん : もともと、地域の森林所有者さんに対して個別に相談に乗り、技術的に支援する林業普及指導員という県の職員の資格がありました。
そのような個別的支援から、もうちょっと地域全体を広域的な視点や長期的な視点で森林を設計できる指導者を育成していこうということで、2016年に出来た国家資格が森林総合監理士(フォレスター)です。林業普及指導員は県の職員だけでしたが、森林総合監理士は国の職員や市役所の職員、民間の林業事業体で経験を積んだ人でも資格を取れるようにすそ野を広げた資格になっています。
フォレスターの最も主要な仕事のひとつに市町村森林整備計画の支援があります。市町村は、森林法で義務付けられている「市町村森林整備計画」というものを5年ごとに作らなくてはいけないのですが、その計画の中で森全体をゾーニングしてどういう活用をしていくのかを決めていく必要があります。市町村職員には林務経験が少ない中でこの計画を作らなくてはいけない方が多く、そこをフォローしていくということが今のフォレスターにとって最も大きな意味合いを持っています。

また計画だけではなく、伐った木をどうやって生かして行くか、出口(利用方法)のニーズを知りつつ所有者さんの意向も聞くなどといった様々な知識やコミュニケーション能力が問われます。
川内さんがフォレスターを目指そうとしたきっかけは何かあったのでしょうか。

川内さん : 元々森のゾーニングみたいなところには興味があったので、携われたらいいなという思いがありました。また、当時フォレスターの資格を取得して市町村森林整備計画に関わっていたのは県や国の職員ばかりでした。どちらの職員も転勤という宿命があります。計画を立てたけど、すぐに異動してしまうということが多いんです。立てた計画がその後どう変遷していくのか、または次の計画で前回の良かったところや悪かったところを把握することが大切なのに、5年後計画を見直す時に、ある程度同じ目線で見ていられるような技術者がいないともったいないなと。地域で根付いて、ひとつの森をじっくり見守る民間のフォレスターが必要だと思いました。
そんな中、自身のやまとわへの転職というきっかけもあり、それじゃあ自分が目指してみようと思ったんです。

自分が伐った木が商品になって全国に届けられる喜び

川内さんがやまとわに入社してから1年4か月が経ちました。大学や林野庁で様々な経験をし、フォレスターを取得した川内さんですが、現場に入って気が付いたことがいくつもあるといいます。

川内さん : 改めて、計画サイドと現場サイド両方を知ることの大切さを感じます。
例えば、フォレスターのテキストでは山の絵があって「作業道をこういう風に入れていけば良いですよ」というようなことを習うんですが、実際は山それぞれに個性があったり状況が違ったりするような場面が沢山あります。地形的には簡単そうに見えるけど、住宅がまわりにあったり、住宅はなくても大切にしている畑があったり。そこはぐちゃぐちゃにされたくない、丸太も置いてもらいたくないとか。なかなか効率重視だけでは、全ての現場は回らないということはなんとなくは感じていたけれど、より強く実感しています。

林野庁では計画サイドとして、事務仕事が主だった川内さん。現場での経験を積んでいく中で、やまとわで働くならではの喜びがあるそうです。

川内さん : やまとわにいて本当にやりがいを感じる部分は、自分たちで伐った木が製品になるまでを身近に見られること。今日持ってきた自分たちが伐って来た木が、翌日には経木職人の酒井さんの手で削られている。経木を削っている音が聞こえてくると「あぁちゃんと活かされているな」というのを本当に肌で感じられることにすごく喜びがあります。
もちろん、木材市場に持って行くのも大事な仕事のひとつではあるんですけど、その後その丸太がどう使われたかというのはどうしても分からないですから。自分たちが伐った木がちゃんと生かされていることを実感できて、経木の担当者から「全国からオーダーが入っていますよ」という話を直に聞くことが出来るので、自分がやっている仕事の意義を感じやすい幸せな環境だなとすごく感じています。

伊那市内の小学校にて。子供たちはこの日伐採体験をし、後日スプーン作りを行う。

1分の1の森づくりを目指して

森づくりというのは広域的かつ長期的な計画が求められます。
市町村森林整備計画に加えて、新たに森林経営管理制度という制度が2年前にスタートしました。 森林所有者に対して市町村が「森林を施業していく意向がありますか?」という意向調査をして、「市町村に施業をお任せします」という回答があったところを市町村で取りまとめて地域の事業体に施業を振り分けるという制度です。

川内さん : 市町村森林整備計画とも関わりますが、しっかりとこれまで以上に市町村を支えて行かないといけないなと感じています。
会社のある伊那市は、50年の森ビジョンがあったりフォレストカレッジをやっていたり、すごく林業に力を入れています。事業体を見てみても、大きな機械を持っていて国が進める面的な施業が出来るところや、大規模には出来ないけど特殊伐採の技術が優れているところなど事業体ごとに個性があります。地域内には信州大学農学部があって学識経験者もいますし、フォレスター的な考えの先進地域だと思います。自分自身も関わっていて学ぶところが大きいです。
しかし、近隣の小さな市町村は必ずしも同様な状況ではないように思います。まだまだ力不足ではあるものの、今後はそういった市町村の計画作成を支えていくような仕事もしていけたら良いなと考えています。

計画サイドと現場サイドの両方を知るフォレスター川内さん。現場でさらに経験を積みながらどんな森づくりをしていくのでしょうか、とても楽しみです。


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