世界では森林破壊が叫ばれ、日本国内では放棄された暗い森が問題になっています。気候変動、二酸化炭素排出規制といった、さまざまな問題と森の問題は切り離せません。気候変動のことはいろんなところで議論が盛り上がっていますが、再生産可能な資源でありながら、二酸化炭素吸収源としても大きな役割を担っている森の現状については、あまり聞こえてきません。世界の森林問題、日本の森林問題のとりまく状況をまとめました。
森が育むエコシステム
森は、地球の生態系にとってとても重要です。雨をたくわえ、土壌の流出を防ぎ、水を浄化し、二酸化炭素を固定する。そして、そこにはたくさんの動物、生物、微生物、植物が暮らしていて、その相互作用によって環境が維持されています。
しかし現在、日本では、森林が持つ公益機能が私たちの振る舞いによって健全性を失ってきています。
雨をたくわえ、土壌の流出を防ぎ、水を浄化し、二酸化炭素を固定する
また、世界では毎日、毎秒、と森林は消失し続けています。実際、1990年から2015年の間に1億2900万haの森林が失われてしまいました(参考:世界森林資源評価2015)。さらに近年では温暖化を影響とする大規模な山火事も増えてきています。
日本でも世界でも、森林にまつわる課題は増大しており、森と私たちが共存していく方法を模索しつづける必要があります。
1億2900万haは、日本 約3.4個分
持続可能な社会をつくっていくためにも、世界の森林環境を守り育んでいくことが重要だというのは、多くの方が認識していると思います。だからこそ、「森林破壊から森林を守るために、森の木は伐採してはいけないもの」と思われているかもしれません。しかし、森林破壊という問題だけが取り沙汰されると本当に大切なことを見失ってしまいます。グローバルの課題とローカルの課題は切り分けて考える必要があります。全体のトレンドと地域ごとの課題は別物です。
世界では森林を過剰利用(overuse)することによって問題が引き起こされ、日本は全く逆ベクトルの森林問題が起こっています。未利用(underuse)、つまり森の木を伐らない、管理できていないことによる問題です。
日本は、国土の7割弱が森林という世界有数の森林国。先進国の中では、フィンランド、スウェーデンに次いで3番目。さらに、「森林が世界で最も育ちやすい国」ともいわれています。しかし、木材自給率は、約36%(2019年時点)。これまでの私たちの暮らしは輸入材に頼ってきた、という現実があります。
森林大国である日本が、森の持続可能な利用を進めず、輸入材に頼るということは、世界の森林のoveruseへの加担につながります。
日本は、今ある国内の森林資源としっかり「共存していく仕組み」と「資源に対する考え方」の更新をしないといけません。
私たちの暮らしと森の関係性を見直しながら、「地域の木を地域で使う」、「日本の木を日本で使う」。そういう当たり前に思えることを進めることが、世界の森林保全に向けた日本の役割だと思います。
私たちの企業理念は「森をつくる暮らしをつくる」。「豊かな暮らし方の提案が日本の森を、ひいては世界の森林をつくる」、につながる仕組み作りを目指しています。
Underuseによって引きこされる問題と人工林
日本では森林資源を使わなくなってしまったことによって、別の森林問題を引き起こしています。それは管理を放棄された「人工林」が増え続けていることによって引き起こされる問題です。
人工林について少し説明をしないといけないですね。
人工林というのは、主に木材生産を目的に、人の手で植林された森林のことをいいます。日本の森林面積のうち約4割は人工林。人工林は、人による管理を前提に設計された森づくりです。木を伐ったあとの森を整地して、木を植えるのですが、面積に対して過密に植栽します。例えば、1ha(100m×100m)の森にスギやヒノキといった昔から日本で建築用材として使われてきた樹種を植林するとします。
木が収穫できるまでにおよそ60年。60年後に良質な木を400本〜600本残すために、最初にたくさんの苗木を植林します。地域によって違いますが、2000本〜5000本、多い地域では1万本植林します。
植林してから数年間は、木が草に負けてしまわないように周りの草刈り。植林してから8年〜10年経ったころ、1回目の間伐を行います。間伐というのは、良いものを残して、形質の悪いものを間引く作業です(野菜でも種を多めに植えてその中からいいものを残して間引きますよね)。
1回目の間伐をしてから5年サイクルで、この間伐を繰り返します。そして、60年が経った頃には、約500本の立派な木が育つという仕組みです。良い木を育てるために、最初は過密に植えて、長い年月をかけて管理をして、収穫するという仕組みが人工林施業の仕組みです。
人工林施業の図解
苗木を植えてから60年。最初に苗を植えたとき、仮に30歳だとすれば木を収穫できるのは90歳です。中には、80年、100年、200年と育てる林業をしている方々もいるので、未来を考えるという視点が、とても大切になります。次の世代、そのまた次の世代のために、苗を植える、管理をする。林業の素晴らしいところであり難しいところです。
人工林は、日本になぜ増えすぎたのか
第二次世界大戦後の復興期に材木需要の高まりに応じて、拡大造林政策がとられました。この政策によって日本中の至るところに、本当にありとあらゆるところに、スギとヒノキが植えられました。もちろん地域の用途によって別の木が植えられました。私たちが暮らす長野県では、カラマツという木がたくさん植えられたので、今でも森を見上げれば、カラマツ林がたくさん目に入ります。
植林された場所の管理がそのまま続いていればよかったと思うのですが、そうもいきませんでした。次第に森は管理されなくなり、放置されるようになっていきました。
日本の森が放置されてしまった時の流れ
一つの契機となったのは、1954年の丸太関税撤廃です。当時の日本は、電信柱から、列車の枕木、建築にエネルギーなど、生活の中でたくさんの木が使われていました。需要増加に伴い、国産材の供給が追いつかず、外国産材の輸入量を増やすために、関税を撤廃。そして東京五輪開催年1964年に木材貿易が完全自由化されました。また、1985年のプラザ合意による円高によって木材輸入はさらに進みました。
1954年には95%だった木材自給率は下がり続け、2002年に18.8%で底を打ちました。外国産材との価格競争や市場価格の低下が続き、林業は産業として成り立たなくなっていきました。
「木を伐り出して市場で販売しても赤字になる」ということで山主は次第に森の整備に投資することをやめていきました。もちろん管理を続けられている素晴らしい山もたくさんあります。ただ、それ以上にたくさんの森では、木々が過密状態で放置されてしまい、森は健全性を失っていきました。
放置された森は、光が森の中に降り注がず、とても暗い森になっています。暗い森は、下層植生が育たず、生物多様性も維持されません。さらに、過密状態で育つ木は、隣の木が近いため、根をしっかりと張ることができず、木としての成長が遅くなります。放置林の木々はほとんどが細く育ちます。
人工林の間伐遅れによって生まれた暗い森
さらに根張りの弱い木々は、土壌を固定する力も弱いので、土砂災害を引き起こすリスクも高まります。海外では、平らな森林が多いためイメージしにくいかもしれませんが、日本の森は、ほとんどが急峻な地形なため山崩れを起こしやすいのです。
私たちの先人たちは、よくぞここまで急な土地の隅々にまで植林したものだ、と尊敬します。
現状を知って、選択を変えていくこと
日本の森林の健全性を取り戻しつつ、海外に対して責任のある資源循環を作りたい、と考えています。私たちが無自覚に使っている輸入木材や木材製品の中には、違法に伐採された木材も混ざっているはずです。主要熱帯木材生産国で生産される木材の50%~90%が違法伐採によるもので、世界全体でも15%~30%が違法伐採であるとの推計(2012年)が報告されています(G8エルマウ・サミット, 2015.06)。(違法性には色々あります。盗木伐採、児童労働、過伐採など)
どこから来た木なのか知って考える
また違法ではなくても、森林の再生産が難しい地域からの木材も多く輸入されています。だからこそ、日本においては「地域の木を地域で使う」、「国内の木を国内で使う」という、ともすれば当たり前のことを少しずつ広げていくことが重要です。
持続可能な環境を、未来に残していくために
人が手を入れた森に、もう一度、人の手を入れ直していく。言うのは簡単ですが、大きな自然に触れることですので、実際に行うのは簡単なことではありません。
それに、長い歴史を積み重ねて作られた問題なので、絡まってしまった糸をほどくには時間がかかります。それでも一本ずつ、解いていくしかないのです。
持続可能な社会を、持続可能な未来を、つくっていくために、私たちは「これからの森の当たり前」をつくることに挑戦しています。
それは、50年前に木の価格が下がったことで、森が放置された歴史を繰り返さないようにすることです。木の価格が下がったから、放置するのではなく、木々や森林が持っている様々な価値に対して向き合っていく、ということです。そのためには、林業だけではなく、他の様々な産業がボーダレスに連携していくことが大切です。
また地域によってももちろん状況は異なります。長野県では今、マツ枯れ病が蔓延し、アカマツがどんどん枯れています。だからこそ、アカマツが枯れてしまう前に、使いたい。
サスティナブルな環境を未来につくっていくために、私たちができること。それは、現状を知って、選択を変えていくことだと信じています。
その一歩目のために、私たちはプロダクトやサービスに想いをのせていきます。
ここまで、ウッドショックが起こる前の状況で書いたのですが、今は、状況が少し変わってきました。新型コロナを契機に様々な影響があり、2021年6月現在、建築用木材の海外からの輸入量が激減しています。
そこで国産材回帰の動きも強まってきています。2019年には36%だった木材自給率は短期的には上がるでしょう。
しかし、日本の山側では、そんなにすぐに対応ができないのが現状だと思います。木を伐るというのはとても難しく、工場のように、稼働時間を増やしたりしてすぐに解決できる問題ではありません。人を育て、山主さんと交渉をし、道をつくる。そして、森で木を伐り、搬出し、製材、乾燥をする。なかなか時間のかかる仕事です。
それに、森を木材生産工場のように捉えて、短絡的な伐採を続ければ、持続可能ではない森づくりに陥ってしまいます。
市場が大きく動いている今だからこそ、私たちは足元に目を向けたいと考えています。持続可能な森づくりはどうすれば実現できるのか。森を見つめながら、この時代の変化をチャンスにして、森がより豊かで健康になれるきっかけづくりにつながることを目指します。
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文:奥田悠史
イラスト:大木洋