たえまなく流れている川の水。雨の降らない晴れの日が続いたとしても、川の水は流れ続けています。
“森は雨水を蓄え、水を浄化し、そして私たちの暮らしを守っている”といったお話を聞いたことはあるでしょうか。ざっくりと聞いたことがある人は多いかもしれません。
日本は、世界の中でも特に雨がたくさん降る国です。年平均降水量は、約1690mm。世界の平均降水量は約810mmと言われているので、世界平均の約2倍以上の雨が降っていることになります。
では具体的に、雨が降った後、水がどのように森の中を移動しながら、水を蓄え川まで届いているのでしょうか。今回は、森の中の水の流れを調べてみました。
森の中には、色んな“雨”が降っている
しとしと降る雨。雨が降ると、洗濯物も乾かないし、少し憂鬱な気分になる人もいるかも知れません。だけど、森で生きる植物にとっては、恵みの雨です。
森に雨が降った時の水の動きを見てみましょう。
まず、森をつくり出している大きな木々の葉っぱや木の幹に、雨が当たります。1回の降水量が10mm以下の雨だと、木の枝葉が雨を遮断し、森に行くと雨宿りができたりもします。この段階で蒸発する水もあるそうです。それ以上に雨が降ると、ゆっくりと木の表面を辿って、土へと水が運ばれていきます。夏の季語である「樹雨」。青葉のころに、森の木々についている滴が、大粒の水滴となって滴り落ちる様子を表した言葉です。日本人は古来、こういった情景も楽しんでいました。
樹木をくぐり抜けたところに待ち受けているのは、草や落葉たち。雨水は、森の中にある色んなクッションを経て、ゆっくりと土の中へと染み込んでいくのです。
雨水を蓄えている、森
土へと染み込んだ水は、長い年月をかけて、地下へと染み込んでいきます。その間に、汚れが取り除かれ、更にはミネラルなどの栄養が追加され、地下水になったり、川に水が流れ出たりします。
森の土が水を吸収できる力は、草原の1.3倍、土が固められている歩道の20倍にもなるそうです。
しかし、こういった力を発揮するためには、そもそもその森の土が良い状態である必要があります。良い土とは、簡単に言うと“ふかふか”の土です。ミミズやモグラ、微生物といった生き物が暮らしていて、程よく土の中にも空気が入っている土が良いと言われています。
森林の土壌は、よく“スポンジ”に例えられることがあります。スポンジに水を流し込んでも、ある一定の量に達するまでは、スポンジの穴に水が蓄えられていますよね。そして、しばらくすると水がゆっくりとスポンジの外へと溢れ出ていく。
森の土の中にも、スポンジと同じように沢山の穴が空いています。それは、ミミズが通った後だったり、木の根っこが朽ちて残った隙間だったり、はたまた虫の住処だったり。雨が降ると、こういった隙間に一時的に水が蓄えられていきます。
そのため、大雨が降ったとして一気に水が川に流れ出ることはなく、反対に雨が降らずに乾燥していたとしても、水が無くなることはないのです。季節によって、雨の量に偏りがある日本。まさに、森に助けられているといってもいいのではないでしょうか。
雨水で土が流れ出てしまう、という問題
しかし、手入れの行き届いていない荒れた森では、水を蓄える力が弱まってしまいます。そうすると、十分に雨水が吸収されず、土から溢れ出た水が地表を流れ出る現象が起こります。地表を流れる水の量が増えると、徐々にその場所に溝ができ、必然的に土も一緒に流れ出てしまう。川の水が茶色く濁っていたら、土が流出している証拠です。
土は、岩と植物、微生物やミミズが複雑に関わり合いながら出来たものです。火山灰が降ってきたと仮定して、そこから1cmの土になるのに約100年かかると言われています。もし火山灰が降ってこない地域だと、岩が風化して1cmの土になるためには1000年以上かかるとのこと。それくらい、土というのはとても貴重なものなのです。
色んな種類の、そして色んな年齢の植物が生えている、多様性のある森
ここ数十年で爆発的に増えている鹿。鹿はありとあらゆる植物を食べるので、鹿が暮らしている森は、一見すると公園のような人が入りやすい森の姿をしています。
しかし、本来生えているべき植物(下層植生)が生えていないというのは、土壌の水の吸収力などに大きく影響を及ぼしています。とある調査によると、森の中の地面が下草に60%以上覆われている場所は、30%未満の場所に比べて土砂の流出が97%少なかったとのこと。
山から流れ出た土砂の一部は、私たちが安定して暮らしの中で水を使い続けられるようにと作られた大きなダムへと堆積し続けています。ダムへと堆積した土は、毎年取り除かれているようですが、その量を上回る土が押し寄せてしまっているとのこと。
長い時間はかかりますが、森を手入れし、元気にしていくことが、私たちやその子供、はたまたその先の子供たちが、豊かに暮らしていくために必要なことなのではないでしょうか。
たくさんの命が繫がり合う森
冒頭でも述べた通り、森があると、葉っぱや木の幹、落葉や切り株など、様々なクッションを経て、土へと辿りつきます。そして、ゆっくりと土に水が染み込み、浄化され、川へ流れたり、私たちの暮らしへ届いたりします。
更に土の中では、木の細かい根っこが網目状に張り巡らされ、太い直根はその網を杭で押さえているような形で下へと伸びています。森の木々たちは、無数に広がる根っこを通して土や石をしっかりと抱え込んでいるのです。こういった森の姿が、土砂崩れ等を防いでくれています。(※根っこが張り巡らされているよりも更に深くから崩れる深層崩壊などはこれに当たりません)
森の中には沢山の命があり、その命が繫がり合い、助け合いながら、絶妙なバランスで循環を作り出しています。そして、私たちはその恩恵を見ず知らずの内に、大いに受けながら暮らしています。森も豊かに、そして私たちの暮らしも豊かに。どちらかが搾取するのではなく、お互いがこれから共存していけるような、そんな未来をつくっていきたいですね。
<参考文献>
新版 森と人間の文化史 只木良也 著/森林環境科学 只木良也 著/森の不思議を解き明かす 日本生態学会 編,矢原徹一 責任編集
<参考サイト>
朝日新聞ウェブ「森の下草で土砂流出97%減 琵環研センターが論文」