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2022.03.11

釘を一本も使わないイスづくり。小学6年生が半年かけてつくりあげた、森とものづくりの授業

伊那小学校6年秋組の皆さんと一緒に、約半年間に渡って、釘を1本も使わずに作るイスづくりの授業をさせていただきました。もちろん、森で材料を収穫するところから。木の加工のみで組み合わせる“ほぞ”を使ってイスをつくる、高い技術が必要となるものづくりの授業。途中、本当に完成しないかと思うぐらいヒヤヒヤしましたが、最初に完成した子供たちが先生となって、みんなで教え合い、助け合いながら、無事にクラス全員1人1脚ずつ作り上げることができました。

今回は、小学生、先生、家具職人が一丸となって行った、その授業の様子を振り返りたいと思います。

どの木で、イスを作りたい?

梅雨が明けて、蒸し暑さを感じる昨年の7月。伊那小学校の6年秋組の皆さんと一緒に、伊那の森へ出かけました。森の間伐をしながら、これから製作していくイスの材料を収穫するためです。

5年生の時にも、ノコギリで木を伐る授業をした生徒たち。今回は、グループごとに分かれて、自分たちで収穫する木を決めるところから行いました。

この木を伐ろうかな。この木を伐ったら、地面に光が当たりやすくなるんじゃないかな。あれこれ考えながら、木を選んでいく子供たち。

しばらくすると、あちらこちらから弊社代表で家具職人でもある中村を呼ぶ声が聞こえ始めます。
「この木を伐って、イスをつくりたいと思っているのですが、作れますか?」

森の中には、色んな木が生えています。コナラ、ヒノキ、ホウノキ、クリ、リョウブetc…。

加工しやすかったり、しにくかったり。木の種類が違うだけで作業の進捗度合いが全く変わってきます。そのため、地域の色んな木で家具を作ってきた中村が、子供たちのもとへ行っては1つ1つ助言をしていきます。

「これは、とっても硬い木だけど大丈夫?この木でイスを作るには、相当頑張らないとだよ。」

中村の助言を聞いて、“違う木にした方がいいんじゃない?”とか、“この木で大丈夫だよ、この木にしようよ!”などと、グループの中で話し合いがはじまります。これを繰り返しながら、自分たちがどの木でイスを作りたいのか、決めていきました。

伐る木が決まったら、次は収穫。スタッフが木に記した設計図を目印に、子供たちはノコギリで木を伐っていきます。

一生懸命ノコギリを挽いて、疲れてきたら次の友達に交代する。そうやって、時間をかけながら、木を伐っていきました。たった、5人ほどしかいないグループの中で、力を合わせながら懸命に木を伐っていきます。なんて逞しい子供たちなんだと改めて思った瞬間でした。

木と向き合い、刃物で樹皮を削る時間

森に生えていたものを、自分たちで選んで収穫してきた木。今回は、生木(木を乾燥させずに収穫したての水分を沢山含んでいる状態)を使ってものづくりをする、グリーンウッドワークという手法を用いてイスを作ります。

まずは、樹皮をきれいに削るところから。削り馬に木を固定させて、銑(セン)という道具で樹皮を削るとスムーズに樹皮を削ることができますが、秋組は全員で37人。道具も限られているので、全員分この道具を用意するのは難しいのが現状です。ということで、基本的にはクラフトナイフで樹皮を削っていきました。傍から見ていると、途方に暮れそうになる作業です。

だけど、子供たちは真剣な表情で丁寧に丁寧に樹皮を削っていきます。

加工した材料で、イスを組み上げる

先に、木の樹皮を削り終わった子供から順番に、ほぞの加工をしていきます。ほぞとは、木と木を繋ぎ合わせる継手のこと。専用の道具を使って、手際よく加工をしていく子供たち。日に日に子供たちの表情が逞しく、そして手際が良くなっていくのを、感心しながら見ていました。

イスを組み上げるのは、本当に難しいんです。ましてや、曲がったり節があったりと、不揃いな木で組むのは、特に難しい。だけど、子供たちには作りたいイスのイメージが明確にあります。

イスを作ると決まった時に描いていた設計図。ロッキングチェアをつくりたいとか、背もたれのあるイスをつくりたいとか。難しいからと言って、あきらめたくない。ここは、大人たちが本気になる番です。やまとわの職人たちが、“この子のイスはどうしたら、スムーズに組み上げることができるか”、“どういう順番で組んでいくのがいいのか”、“もし、組めなかった場合はどういうアプローチができるのか”など、授業の進捗に合わせてその都度対策を練っていきます。

どれ1つ同じ形のないイスの材料。

授業という限られた時間の中でどうやったらきれいに組み立てられるのか、1人1人のイスの形や加工した材料などを見ながら職人たちが助言をしていきます。職人からの助言を真剣な表情で聞きながら、なんとかイスを組み上げようともがいている子供たち。まだまだ、完成までには長い道のりが続きます。

怒涛の追い上げと、教え合い、助け合う子供たち

私たちは、授業に付きっ切りでサポートすることはできません。限られた時間の中で出来る限りのサポートし、残りの時間は先生の方で授業を進めていただく必要があります。しかし、1月末に入り、あと2回しか授業へ伺う時間が取れないという段階で、まだイスが組みあがっていない子供たちが大勢いるという状況。私たちは、もうこれはクラス全員が完成するのは難しいのではないだろうかと、確信に近い不安を感じていました。

そんな時に、先生から1本の電話をいただきました。
「イスがどんどん組みあがっているので、また見に来てもらってもいいでしょうか?」

なんでも、先に完成した子供たちが先生となって、他の友だちに伝えていくという連鎖が起こっているとのこと。更には、授業時間に加えて休み時間や放課後などの空き時間にも、子供たちは自主的にイスづくりを進めていたようです。授業に行くと、仲間同士協力しながらイスを組み上げていく姿が見受けられます。

以前、授業の中で中村が子供たちに伝えた言葉があります。

「みんなが用意した材料は、どれ1つ同じ形はありません。だから、定規を使って測るのではなく、現物を見ながら現物合わせで考えてみて下さい。」

この言葉が、ちゃんと伝わっていたようで、子供たちは持っている材料を実際によく見て現物合わせをしながら、穴を空ける位置を決めています。その姿は、まさに職人の雰囲気を醸し出していました。

そして、手際もめちゃくちゃいい。穴の位置がずれていて新しく材料を用意しないといけないとなると、直ぐに屋外から枝を調達してきて加工をはじめる子供たち。作業に行き詰まると職人に声を掛けて、何とか助言をもらおうと必死で、職人たちもひっぱりだこ。子供たちも職人も、一緒に楽しみながら1つのイスを作り上げている姿が印象的でした。

そして、最後の授業。子供たちは無事にイスを組み上げ、なんと座編みまで完成させていました。(※座編みとは、ペーパーコードという紐を使って、イスの座面を編んでいくこと)

最後に一言いただいてもいいですかと先生に言っていただいたので、今までずっと生徒さんに寄り添ってきた職人が、自分は人前で話すのは苦手ですがという前置きを置いて、話し始めました。

「良くできたところも、上手くいかなかったところも、一番良く分かっているのは自分だと思う。そして、作ったイスの価値を一番知っているのも自分だと思う。これから使っていく中で気になる所とか、不具合がでたらいつでも相談に乗ります。なので、そのイスの価値をこれからも高めていってください。」

一生懸命イスを作っていたある男の子が、頻りにうんうんと頷きながら職人の話に耳を傾けていました。その姿を見ていると、本当にみんなよく頑張ったなと、何かぐっと込み上げるものがありました。

最後に、子供たちから聞いた感想をご紹介したいと思います。


・卒業までに完成できると思わなかったので、イスを作り上げることが出来て嬉しい。
・無事にできて良かった。自分用に大切に使っていきたい。
・思ったより木が白っぽかったので、家に持って帰ったら色を塗りたいな。
・手作り感あふれる雰囲気が、とても気に入っている。思っていたよりしっかり作ることができたので、満足している。
・木の皮を削っていると、木によって色とか模様が全然違っていて面白かった。

森に生えている木を収穫する所から行った、壮大なイスづくりの授業。嬉しいことに、ものづくりが大好きになったという声を聴くことができ、なんだかほっとしました。イスの不具合が出たら相談したいですと、こそっと言いに来てくれた生徒さんがいたので、名刺を渡しました。いつでも、連絡待っているからね。伊那小学校6年秋組の皆さんと、これからも長いお付き合いができることが、とても嬉しいです。

さいごに

子供も、大人も本気になって作り上げた木組みのイス。こちら、3月15日~18日にかけて伊那市役所の1階エントランスに展示されることになりました。3日間限定の展示会。近くにお住いの方は、子供たちの力作をぜひ見に来ていただけたら嬉しいです。

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