やまとわ36officeから西へ約2キロの場所にある約55haの森。やまとわでは、昨年度よりこの森の管理を任され、様々な方にご協力いただきながら“新しい森づくり”の形を模索しています。
やまとわが考えている“新しい森づくり”とは一体どんなものなのでしょうか。
森の所有者である地元の財産区の皆さんと話し合いながら、森づくりを進めている農と森事業部の川内さんにお話を伺いました。
まず最初に、この森と所有者である財産区について教えてください。
川内 : この財産区が所有する5つの森のひとつで、広さは約55ha。大体東京ドーム11個分の広さになります。
カラマツが5割、アカマツが2割、ヒノキ2割弱、広葉樹が1割強という割合の樹種で構成している森です。
財産区とは、生活に必要な薪などの燃料や堆肥用の落ち葉などを手に入れるために、共同で森林を管理する入会(いりあい)の名残。人々の暮らしととても近く、里山のような存在でした。
現在では、暮らしが変化し薪や落ち葉を取りに行くことはなくなってしまいましたが、様々なアウトドアアクティビティを手がけるASOBINAさんがマウンテンバイクコースとして使っていたり、登山道があったり、地域の水源がある場所で人との関わりが強い森になります。さらには、竜西地域(天竜川西側エリア)の中では有数の狩猟の場でもあると聞いています。
昨年行った調査の中で、カラマツ、アカマツ、ヒノキそれぞれの樹種ごとに森の込み具合を出してみたところ、全ての場所で混みあっていて要間伐の数字が出たといいます。そこでまず、下層植生があって災害を防ぐような森にしていくために間伐をしていく計画を立てました。
さらにやまとわでは、木材生産の場としてだけではない森の価値を高めるような“新しい森づくり”を進めています。そこにはどのような背景があるのでしょうか。
川内 : 多くの林業事業体の収入は木材生産だけでは成り立つことができず、補助金に頼らざるを得ないのが現状です。また大規模な木材生産をしようとすると、大型の機械や搬出のための大きな道が必要になり、さらに機械を遊ばせないために施業地を拡大し続ける必要があります。結果として、木を必要以上に伐り出すことになり森を荒らしてしまう。
そうなってしまわないように、生物多様性が維持された森でありつつ、地域の水資源も守られる中で森の手入れをしていく方法について模索しています。
生物多様性が維持された森づくり。それは一体どんな森で、その森づくりのためにどんなことをしているのでしょうか?
川内 : 猛禽類(鋭い爪とくちばしを持ち他の動物を捕食する鳥類の総称)の調査を長野市にあるラポーザさんにお願いしています。主に大きな土木工事をする前に環境アセスメント調査(大規模な開発によって環境に与える影響を調べること)をしていらっしゃる会社で、猛禽類の調査だけでなくドローンセンシング(ドローンにセンサーをつけ、地上を測定すること)も行っており、ふたつの側面から調査できる点が決め手でした。
調査を進めていると、この森で“ハチクマ”“ノスリ”“オオタカ”の3種が見つかりました。“ハチクマ”は蜂の幼虫やさなぎを食べますし、“ノスリ”は昆虫や爬虫類、小鳥などを食べます。また“オオタカ”は、ハトやカモなどの鳥類と小型哺乳類を食べる。
食べる、食べられるという関係性。陸の生態系のトップである猛禽類を調べることで、この森や森の近くの田畑にどんな生きものがどのくらいいるのかについても知ることができるんです。
さらに川内さん達は、伊那市50年の森林ビジョンの委員で緑地生態学がご専門の信州大学農学部 大窪久美子先生に、「森の資源利用と生物多様性の両側面からチャレンジしたい」と相談しました。すると、修士の1年生でカミキリムシの研究をしている学生がフィールドを探しているとご紹介くださったといいます。
川内 : カミキリムシは、大きさや品種、食べものだけでなく環境の変化に対しても多様に分化が進んだ種のようで、日本だけで700種類もいるそうなんです。ほんの少しの環境変化や違いで、種類が違うという特性があります。そういう特性を環境変化に対する指標として使えるのではないかと考えました。
猛禽類を調査しているラポーザさんからもらった資料を大学に提供して、また違う情報をカミキリムシの調査をしている大学側からもらう。そんな関係性が生まれそうです。
木材生産だけではない森づくり。
川内さんが思い描いている森づくりは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
川内 : 森づくりの結果は1年や10年では結果が見えにくいのでとても難しいのですが、この森の指標みたいなものを早く自分達で作りたいなと考えています。
森の地形判読や土地の成り立ちを調べる際にご助言頂いているジオ・フォレストの戸田堅一郎さんのお話によれば「日本で木材生産性が高くて生産しても安定的な地形というのは、民有林では17%しかない」とのこと。
そうすると、残り83%の森は林業に適さない森になってしまうのですが、83%の中からたくさんの木を出さないといけないのでやむを得ず施業しているのが現状です。
そこで木材生産だけではない別の価値づけをすることで、大規模な事業体でなくても林業ができたり森に関わる人が増えたりすることで、結果として森が良くなっていくのではないかと考え、頑張っています。
「誰が見ても分かるような、森の将来ビジョンを描いた地図を作りたい。」と楽しそうに話す川内さん。
森のどのエリアにどんな木が生えていてどんな生きものがいるのか、さらにどんなことができそうなのか。誰もが一目で分かり、見るだけでワクワクするような森の地図は今年度中の完成を目指しているとのこと。
農と森事業部では、約55haの森に関わる多くの人たちと共に、達成したい目標や夢をたくさん詰め込み、未来の森づくりのために、様々な新しい挑戦をしています。