笑顔が素敵な金井渓一郎(けいいちろう)さん、幸子(さちこ)さんご夫婦。
伊那谷をフィールドに木こりとして暮らす金井さん。林業界でも珍しく一人親方で生計を立てる林業界のホープでもあります。その金井さんが、2017年2月に結婚式を挙げました。木こりらしく、木のストーリーのあるものを引き出物にしたいと考えた金井さん。やまとわは、今回その引き出物づくりのお手伝いをしました。
ストーリーのあるお箸を引き出物に
おふたりは手作り感のある結婚式でゲストをもてなし、喜んでもらいたいと考えていました。ウェルカムスペースや招待状、プロフィールブックなど、様々なものを手作りで準備する中、「ゲストへの贈り物も手作りしたい」と思うようになったそうです。
「両家の木を使って、ゲストに贈り物を作りたい。お箸はどうかな」。木こりである渓一郎さんらしいアイデアです。渓一郎さん、幸子さんの両家がたまたま山を持っていたことから思いついた企画です。
お箸の制作は、まず木を切るところから始まります。材料となるヒノキは、伐採や運搬が難しい急な斜面に立っていました。特に、幸子さんのご実家の山で伐採した木を運び出すには、辰野町を流れる小野川をどうしても越えなければならない状況。そこで、伐採した木をいかだのように組み、流しながら対岸へ渡しました。
「木を切るよりも運び出す方が大変だった」と話す渓一郎さん。木こりの渓一郎さんだからこそ、できた企画です。一般の方が真似をする場合はプロの指導のもと行なってくださいね(笑)
その後、両家の2本のひのきは、製材屋さんで約2mのひのき板に加工され、1ヶ月の乾燥を経て、こうあ木工舎に持ち込まれました。今回担当させていただいたのは、こうあ木工舎の女性職人、當房(とうぼう)です。おふたりのイメージを聞き取りながら、作業を進めました。
まず、ひのき板をお箸の大きさに切るところから始めます。お箸は細いため、機械である程度の細さまでカットしたら、あとは手鉋(てがんな)で手に馴染む形へ仕上げていきます。
お箸の大きさにカットした木は一晩水に浸し、その後乾かします。この作業は、曲がってしまうお箸を事前に見つけるためです。続いて、お箸の表面に拭き漆をします。通常は7?8回繰り返しますが、おふたりの希望で、1度で仕上げました。お箸の頭に紅白の印をつけ、完成。おふたりには「きれいに仕上げてもらった」とご満足いただくことができました。
金井家の山から切ったものには白、幸子さんのご両親の山から切ったものには赤の印をつけています。
今回、担当の當房は「好きなことを仕事にし、自分が作ったものでお客さまが喜んでくださる。こんなに嬉しいことはない」と言います。お客さまのご希望や想いに寄り添い、それが形となった時、作り手は大きな喜びを感じるのです。
結婚式当日、完成したお箸は、おふたりが作った箸袋に入れられ、ゲスト一人ひとりのテーブルへ。そして、1本のムービーが流れ始めます。
そのムービーとは、木の伐採から、お箸が完成するまでの過程を、幸子さんがまとめた映像でした。それをご覧になったゲストは、ご自身の目の前にある手作りお箸のストーリーを知り、「すごい!」「素敵だね!」と感動。特に、両家のご家族、ご親戚が大変喜んでくれ、ゲストにとっても、おふたりにとっても、良い思い出となりました。
手作りに溢れたあたたかい結婚式となったのは、おふたりの「ゲストを喜ばせたい」という想いが強かったからだと感じます。そして、自然を愛するおふたりだからこそ思いついた、両家の木で作る、手作りのお箸。想いは形に、形は想い出に・・・ずっと心の中に残るでしょう。
微力ではありますが、人生の大切なイベントのお手伝いができ、私たちも感動を分けてもらいました。
地域材を使ったオーダーメイド家具に取り組んできたらこそ、今回のお話をいただきました。企画を形にする。それが私たちの仕事です。皆さんも想いを形にしてみませんか?
文・新井明日香